弱点1

粉飾の可能性が高い企業は、外部に出す決算内容が大雑把になりがち。内訳を聞いても「その他」があまりに多い。

 A社からの3000万円の融資の申し込みは、「運転資金」ではなく、おそらく「赤字補填」だろう。

 融資担当者としては、「貸す理屈が立たなければ稟議を通せるはずもなく、従って、応じられない」のだという。当然である。

 「A社とは長いお付き合いで重要な取引先なので、これまでは頼まれれば基本的に貸してきました。ただ、近年の業績が全く振るわない。おそらく今回の融資額では束の間の埋め合わせになるだけ。

 貸し付け総額は、うちだけで8億円ですから。業績に陰りが見える、というか粉飾の疑いがある以上、今のうちに手を打たなければと──」

 粉飾を見抜けず長年貸し付けていたとなると担当者の責任問題にも及んでしまうので、倒産させるわけにはいかない。

 さりとて債権者・債務者という立場上、銀行側で社長をどんなに問い詰めても、しょせん強制捜査権もないのだから、真実を明かす方法はない。

 「会社の業績が悪くなる要素を取り除いて健全な経営ができるのなら融資もやぶさかではありません。とにかく何か財務に問題があるのであれば今のうちに手を打っておきたい。そこを、金子さんにお願いしたいのです」


 金子は目指すA社に到着する。

 社屋の向こうに工場が見える。

 窓が開け放たれていたので、近寄っていき、工場の中を覗き込んでみると、設備投資はよくやっているようである。

 発注元の大手企業から「これを作れないか」と依頼を受けた製品を漫然と作るのではなく、新しい加工技術を開発・提案してきたのだろうか。A社の工場では、真新しい生産設備が中央に鎮座している。

 さらに工場脇に視線を転じてみると、廃棄物を入れるスクラップボックスには「不良」と見られる加工品が無造作に捨てられているのが見える。

 「まだ午前中だというのに、これはかなりの数だぞ……」

 金子が窓から身を乗り出してしげしげと覗いていると、工場内にいた中年の社員がこちらに気づいたようだ。

 胡散臭そうな目で金子を眺め回しながら近寄ってくるが、スーツ姿に何かを感じたのか、取り繕うように会釈をし、「不良品」をそそくさと回収していった。

 「やっぱり、家に持って帰るんだろうなあ……。」

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