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強みを伸ばしてさえいれば、会社が何とか回る時代は終わった。これから求められるのは、弱みに蓋をせず、確実に潰すこと。弱点の克服法を企業再生のドキュメントを通じて学ぼう。

本記事の主人公
金子剛史(かねこ・たけふみ)氏
慶應義塾大学卒業後、日本石油(現・JXTGホールディングス)入社。公認会計士試験合格の後、エスネットワークス入社。取締役執行役員を経て、退職。2017年MODコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。国内有数の私的再生のプロとして、これまで約300社を復活させた。本記事は、会社や個人が特定されないように複数の事例を基に、1つのストーリーとしてまとめた

赤字受注の理由

 精密機器の街をタクシーでひた走る。

 福岡県の北九州空港から、目指す会社まで後部シートにもたれ、金子剛史は日本有数の半導体産業の集積地を眺める。

 この北九州を含む九州一円は、大企業の工場があり、その周辺に寄り添うような配置で下請け、孫請けの中小企業が点在し、シリコンアイランドと呼ばれている。

 「今、下請けはかなり厳しいですよ。大企業は軒並み、外国へ出ていっちゃって、下請けとの取引なんてそれっきりだから。大手1社にべったりだったところはあっという間に倒産、廃業は珍しくありません」

 タクシー運転手がこう嘆息する。

 「運転手さん、やっぱり会社の少し手前で止めてください。このあたりをちょっと歩きたいから──」

 そう言って、金子は目指すA社より1区画手前で降車する。

 知らない土地ではない。

 この地域の企業再生を幾度も手がけてきているから、勝手知ったる土地である。

 澄み切った空気を思い切り吸い込みながら、金子はA社へ歩みを進める。周囲の様子を確かめるのは、新規再生案件に臨むときの習慣になっている。


 X市にある、部品メーカーA社の会社設立は1969年。

 社長の橋本一志(仮名)は創業者の息子である。父譲りの押しの強さを持つ、典型的なワンマン社長。

 高い技術力を武器に91年のバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックを乗り越え、生き抜いてきた。

 しかしここに来て、最盛期の07年には20億円あった年間売上高が、18年には12億円まで減った。

 同業者にはリーマン前の水準に回復しているところもあるというのに、A社の業績は上向かない。

 一体、この会社に何が起きているのか。

 B銀行の支店長から、金子にA社の案件が持ち込まれたのは先月のことだった。

 「新たな技術を開発する力もあるだけに、何とか再生させたいのですが、とにかくいつも資金繰りが厳しい。今回も運転資金を貸してほしいということで、こちらとしても応じたいのはやまやまですが──」

 B行にとっては先代の創業者から付き合いのあるA社だが、どうも近年の決算が不穏であるという。

 「例えば売掛金の3億円。内訳はC社に対して8000万円、D社には3000万円、E社に5000万円、あとは『その他』でくくっています」

 不信感を訴えるB行の融資担当者の説明に、金子もうなずく。

 隠したいことがあるほど決算は大雑把になりがちだ。おそらく粉飾もしているのだろうが、そこを追及することが金子の役割ではない。

 B行の依頼はあくまで「企業再生」である。