強みを伸ばしてさえいれば、会社が何とか回る時代は終わった。これから求められるのは、弱みに蓋をせず、確実に潰すこと。弱点の克服法を企業再生のドキュメントを通じて学ぼう。
金子剛史(かねこ・たけふみ)氏
赤字受注の理由
精密機器の街をタクシーでひた走る。
福岡県の北九州空港から、目指す会社まで後部シートにもたれ、金子剛史は日本有数の半導体産業の集積地を眺める。
この北九州を含む九州一円は、大企業の工場があり、その周辺に寄り添うような配置で下請け、孫請けの中小企業が点在し、シリコンアイランドと呼ばれている。
「今、下請けはかなり厳しいですよ。大企業は軒並み、外国へ出ていっちゃって、下請けとの取引なんてそれっきりだから。大手1社にべったりだったところはあっという間に倒産、廃業は珍しくありません」
タクシー運転手がこう嘆息する。
「運転手さん、やっぱり会社の少し手前で止めてください。このあたりをちょっと歩きたいから──」
そう言って、金子は目指すA社より1区画手前で降車する。
知らない土地ではない。
この地域の企業再生を幾度も手がけてきているから、勝手知ったる土地である。
澄み切った空気を思い切り吸い込みながら、金子はA社へ歩みを進める。周囲の様子を確かめるのは、新規再生案件に臨むときの習慣になっている。
X市にある、部品メーカーA社の会社設立は1969年。
社長の橋本一志(仮名)は創業者の息子である。父譲りの押しの強さを持つ、典型的なワンマン社長。
高い技術力を武器に91年のバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックを乗り越え、生き抜いてきた。
しかしここに来て、最盛期の07年には20億円あった年間売上高が、18年には12億円まで減った。
同業者にはリーマン前の水準に回復しているところもあるというのに、A社の業績は上向かない。
一体、この会社に何が起きているのか。
B銀行の支店長から、金子にA社の案件が持ち込まれたのは先月のことだった。
「新たな技術を開発する力もあるだけに、何とか再生させたいのですが、とにかくいつも資金繰りが厳しい。今回も運転資金を貸してほしいということで、こちらとしても応じたいのはやまやまですが──」
B行にとっては先代の創業者から付き合いのあるA社だが、どうも近年の決算が不穏であるという。
「例えば売掛金の3億円。内訳はC社に対して8000万円、D社には3000万円、E社に5000万円、あとは『その他』でくくっています」
不信感を訴えるB行の融資担当者の説明に、金子もうなずく。
隠したいことがあるほど決算は大雑把になりがちだ。おそらく粉飾もしているのだろうが、そこを追及することが金子の役割ではない。
B行の依頼はあくまで「企業再生」である。
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