人間の生き方こそ経営

「経営」という言葉はもともと仏教用語です。禅寺に行けば分かります。座禅を組んでいるときに警策(けいさく)で肩をたたかれ「しっかり経営しなさい」と言われます。

 経営とは、経(人生の奥義)を営むことです。お経はお釈迦さんがいかに生きるべきか、人間の生きざまを説いたもの。人間の生き方を実践するのが経営で、経を営む者が企業経営者なのです。

 とかく人間は良いことも、悪いことも永遠に続くように思いがちですが、朝の来ない夜はないし、夜の来ない朝もありません。月の満ち欠けや潮の干満と同じ自然の摂理で、善悪は循環するものですが、させない方法があります。それは善悪を満喫しないこと、とらわれないことです。

 良いときには喜び、悪いときにはその中で良いことを探す。どんな最悪の中にも、それなりの最善があるものです。

 人生で起こる問題は、「どうにかなるもの」と「どうにもならないもの」の2つしかない。どうにかなるものはどうにかする勇気を、どうにもならないものは受け入れる冷静さを持てばいいのです。

 明日は「明るい」「日」と書きます。文字通り、太陽と月が合体したくらい明るい、目がくらむほど明るいのが明日なのです。

 あの世に極楽があるかどうか、僕は行ったことがないから分かりません。ただ僕はこの世は極楽だなとしみじみ思う。こんなにいいところはほかにない。

 人間は誰でもいずれ死にます。死へと向かう足音を聞いたことがありますか。心臓の鼓動や脈拍がその音です。これが止まったら一巻の終わり。足音を感じるたびに、悔いがないように生きたいと心から思います。

 一方で、僕は毎晩眠ることこそ、日々繰り返される死だと思っています。そして翌朝目覚めて、また生まれるのです。

 どっちみち、僕もみなさんもくたばりまんねん。中途半端に生きたって全力で生きたっていつかくたばる。だったら後悔のないようにしようや。せめて元気なうちは全力で生きましょうや。

 なんだかんだ言うても経営は真剣にやらないけまへん。社長が一生懸命にやっとることがね、社員の一番の励みになりますねん。頭の良しあしなんか関係ない。ベストを尽くすこと。たったこれだけのことを言いたかったんですわ。みなさん頑張ってくんなはれよ。

(『靴下バカ一代』から再構成)

靴下の神様、さようなら

 越智会長からのラストメッセージとしてふさわしいと思い、今回この文章を選びました。どんな追悼文より伝わるものがあると思ったからです。

 越智会長の人生はまさに靴下と共にありました。「いい靴下は噛めば分かる」と話し、やってみせてくれたことがあります。

 靴下の弾力を確かめるには噛むのが一番。ただそれには呼吸を止め、一定の力で噛み続けなければいけない。若き日の越智会長は水を張った洗面器に顔をつけて、息を止める練習をしたそうです。

 靴下に向き合う真摯な姿勢は終生変わらず、「越智会長が来たと分かると今でも指が震える」と靴下工場の職人さんが話していたのを覚えています。

 いつだったか「荻島さん、元気かなと思って」と突然呼び出され、喫茶店で世間話をしたことがありました。誰にでも気さくで優しかった「靴下の神様」。本当にお世話になりました。

(この記事は、「日経トップリーダー」2022年2月号の記事を基に構成しました)

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