靴下専業メーカー、タビオの創業者で会長の越智直正氏が1月6日、急逝した。82歳だった。靴下問屋での丁稚奉公からスタートし、靴下専門店の全国チェーン「靴下屋」を一代で築いた。商品開発に尋常ならざる熱情を注いだ「靴下の神様」を偲ぶべく、過去の記事を再構成した。

1939年愛媛県生まれ。中学卒業後、大阪の靴下問屋に丁稚奉公。68年に独立し、ダンソックス(現タビオ)を創業。靴下の卸売りを始める。82年に小売りに進出。84年に「靴下屋」1号店をオープンすると同時にフランチャイズチェーン展開を開始。メード・イン・ジャパンにこだわり、品質の高さと独自の生産・販売管理システムでタビオを靴下のトップブランドに育て上げた。2000年大証2部に上場。08年から会長。著書に『靴下バカ一代』(日経BP)がある。22年1月逝去(写真=太田未来子)
2008年5月、長男の越智勝寛に社長の座を譲り、僕は会長になりました。健康上の理由で靴下を履かなければならんようになったからです。僕は15、16歳のときから靴下を履かんで生活してきた。履くようになったら、靴下屋の社長はもう務まらんと思っとったのです。
素足にサンダルは50数年来の習慣です。出張以外は靴下を履かずに社長業を続けてきました。商品の仕上がり具合や履き心地をより正確に確かめるには、普段からはだしでいるのが一番だからです。
ただ医師から「足を冷やすのはよくない。せめて冬の間は靴下を履かんといかん」と言われましてな。僕は「嫌です」と言うたんですが、嫁はんがどうしても「履け」と言いまんのや。それでしぶしぶ履くようになった。1月とか2月の寒い時期だけだけどね。
でも、それって、「靴下より命のほうが大事になってもうた」ということでしょ。商売人は自分のところで売っとるものを、命より大切にせんといかんと違いますか。
クビになる夢を見る
僕は今でも年に数回、タビオをクビになった夢を見ます。繰り返し見るその夢は、経営者の責任の重さを教えてくれているのです。
(中国・随の時代を扱った歴史書である)『隋書』の独孤皇后伝に「騎虎の勢い、下ることを得ず」という有名な話があります。
混乱する中国を統一し、隋の国を開いた文帝楊堅(高祖文帝)は、天下統一の作業が終盤を迎えた頃、妻の独孤伽羅に宛てて、「戦場を駆け巡り一段落した。疲れたので一度お前の元に戻って一休みしたい」という旨の手紙をしたためました。
すると、妻・伽羅からの返事にはこう書いてあったそうです。
「あなたは天下取りという、1日に千里を走る虎の背に乗っているのです。乗った以上、途中で下りることはできません。もし途中で下りれば、たちまちその虎に食い殺されますよ」
大事を起こして立ち上がった以上、途中でやめては自ら滅びてしまう。僕も数多くの経営者も、もう虎から下りるわけにはいかないのです。
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