粉飾に走って破滅した経営者を今後も対岸の火事と済ませられるだろうか。昨年、中小企業を苦しめた新型コロナウイルスが、再び威力を増している。長期戦が予想され、魔が差してもおかしくない。粉飾は、会社の息の根を確実に止める。良かれと思った苦渋の決断が、最悪の結果を招くのだ。実際に手を染めた経営者たちの肉声から、その恐ろしさを感じ取ってほしい。

(写真:PIXTA)

<特集全体の目次>
・粉飾経験者の独白(1)「在庫を操作した罪悪感が、頭にこびりついて離れない」
・コロナ、地銀再編、高齢化……これから一気に高まる粉飾決算リスク

・粉飾経験者の独白(2)「しなければよかった、とは今でも思わない」
・粉飾決算、実は銀行は知っている?
・粉飾経験者の独白(3)「そそのかしてきた金融機関。私は大義のために喜んで手を汚した」
・会社を守る最後の手段は本当に粉飾経営ですか?(2月10日公開)


 こちらの経営者の独白を読んで、どう思っただろう。「当社もコロナで苦しい。もしかすると自分も……」と不安を感じただろうか。まず、中小企業を取り巻く粉飾経営の最新事情について俯瞰しよう。

 クルーズ船での新型コロナウイルスによる集団感染が起きたのが2020年頭。そこからさらに遡ること数カ月前、ある人物の発言に金融関係者が注目した。

 発言の主は全国地方銀行協会の会長(当時)。19年11月の会見で、粉飾決算をする融資先が見られるようになったこと、金融機関の貸倒引当金が増えていることに言及したのだ。

大がかりな粉飾経営が、倒産を機に明るみに
粉飾経営の一例
出所:帝国データバンクの資料
サンヒットの本社(当時)。株式上場を狙っていたとされる

 実際、19年から20年頭は粉飾決算が話題によく上った。大規模な粉飾決算が次々と発覚し、優良とされていた中堅・中小企業のメッキが一夜ではがれた。例えば和洋紙卸を営む玉屋(松江市)の粉飾決算は30年以上に及ぶ。

 またAIコーポレーション(東京・港)は取引金融機関が50を超えていた。多行取引をする中小企業の粉飾決算は、金融機関の競争激化も要因の1つとされる。日本銀行金融機構局の職員がまとめたリポートによれば、地方銀行は融資先を求めて越境貸し出しに積極的な傾向があるという(2019年「地域銀行の越境貸出の動向」)。

 一方、中小企業は業績や財務状態が悪いところほど、あらゆるところから資金を工面しようとする。「経営者が消費者金融に駆け込んで個人でお金を借り、それを会社につぎ込むケースはよくある」(東京都中央区の石黒法律事務所、石黒安規弁護士)のが実情だ。

 中小企業と銀行の思惑が一致し、粉飾決算で融資する金融機関の数が多くなる構図を生む。負債額も結果的に膨れやすく、先述のAIコーポレーションは経営破綻時、約190億円もあった。

続きを読む 2/2 急逝した先代が粉飾

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