既存の市場は縮小しても、その一方で新しい市場はどんどん生まれる。要は工夫次第である。不動産業界では、放っておかれて増える一方の「空き家」があるが、これを市場にすることで成長する家いちば(東京・渋谷)という会社がある。その藤木哲也CEOに、事業を拡大しつつ、社会問題も解決しようというビジネスモデルの考え方について語ってもらった。

<span class="fontBold">ふじき・てつや</span><br> 家いちばCEO。1993年、横浜国立大学建築学科卒。ゼネコンで現場監督、建築設計事務所で設計、住宅デベロッパーを経て、不動産ファンド会社にて不動産投資信託やオフィスビル、商業施設などの証券化不動産のアセットマネジメントに携わる。豪ボンド大学のMBA(経営学修士)を取得後、2011年に家いちばの前身となる不動産活用コンサルティング会社、エアリーフローを設立。15年に「家いちば」サイトをスタート、19年、家いちば設立(写真/清水真帆呂)
ふじき・てつや
家いちばCEO。1993年、横浜国立大学建築学科卒。ゼネコンで現場監督、建築設計事務所で設計、住宅デベロッパーを経て、不動産ファンド会社にて不動産投資信託やオフィスビル、商業施設などの証券化不動産のアセットマネジメントに携わる。豪ボンド大学のMBA(経営学修士)を取得後、2011年に家いちばの前身となる不動産活用コンサルティング会社、エアリーフローを設立。15年に「家いちば」サイトをスタート、19年、家いちば設立(写真/清水真帆呂)

 近年、空き家問題がさまざまなメディアに取り上げられているが、本当に空き家は「問題」なのだろうか。

 私の手がけているウェブサイト「家いちば」は、空き家や少し変わった不動産など、これまであまり不動産の売買市場に出回らなかったような物件を掘り起こし、市場に流通させることをやってきた。

個人で不動産の売買商談ができるウェブサイト「家いちば」
個人で不動産の売買商談ができるウェブサイト「家いちば」
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 これまで不動産の売買は、不動産会社が間に入るのが常識だった。だが今、空き家が増え、それが流通しないという状況になっている。従来のままではこの状況は変わらないのではないかと考え、個人で不動産の売買商談ができる仕組みをつくった。家いちばでは売り主と購入希望者の間に不動産会社は入らないから、希望者からの問い合わせは売り主に直接届く。その後の質問などのやり取りや物件の内見などの対応も売り主が行う。基本的なやり取りはネット上でできる。

 ただし、売買契約、物件の引き渡しをするまでの契約フェーズでは、宅地建物取引士が中心となって契約書類を取りまとめ、登記の事務も司法書士で執り行う。媒介報酬は通常の半額にし、「0円不動産」のようにそもそも媒介報酬を算出できないような場合にも経費だけは賄えるように基本料金を加算する設定にしている。これが家いちばのビジネスモデルだ。

 家いちばを5年間運営して見てきた光景からすると、今後もさらに広がっていく勢いだ。運営を始めて1年で4件だった成約数は2020年12月18日までの累積で295件、同11月末時点の累積売買高は7億3800万円になった。「売れない」とされていた空き家が売れている。

 空き家が流通し始めればそれが所有者のみならず、地域や社会にもインパクトを与えていくはずだ。その動きを見ていると、必ずしも空き家は「問題」ではないと思えるのである。

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