経営者を取材していると、しばしば強烈な信仰心に遭遇する。得度した京セラ創業者の稲盛和夫氏のように、仏教やキリスト教などの宗教に帰依する人もいるが、どちらかというと独自の信仰対象を持っていることが多い。

 私欲だけでは従業員をまとめ上げることはできない。もっといい会社をつくりたい、経営者としてもっと成長したいというストイックな側面を強めた経営者が、自らを省みる信仰対象を持つことは自然だ。本当の悩みは幹部にもなかなか吐露できないので、心の支えも必要だろう。

 時代の転換点を迎え、経営者には今後、難しい判断が求められる局面が続く。そんなときには、祈ってみてはどうだろう。決して冗談で言っているのではないことは、本特集で紹介する経営者たちの「信仰の現場」を見ればお分かりいただけるはずだ。


<特集全体の目次>
●松下幸之助を支えた信仰「宇宙根源の力」
●フォーバル大久保会長、太陽と月に毎日祈って30年
●毎朝、水風呂で『大断言』を唱える経営者
●ラッキーピエログループ・王会長「3つの神に信念を誓う」
 アクト・伊藤社長「通勤中に車内で詩を発話」
 アサヒ・ドリーム・クリエイト・橋本社長「毎月欠かさず、往復7時間の墓参り」
●「初辰まいり」で毎月、業績報告
●1日3回、元禄時代からの先祖の名を読み上げる
●築地本願寺の改革を先導した、安永宗務長の経営者観


何のために生きているのか、自分の答えがないと土壇場で慌てる

信仰心を持つ経営者は、持たない経営者と何が違うのか。自身も中小企業経営者の経験を持つ築地本願寺の安永雄玄宗務長に聞いた。伝統的な寺を大改革し続けるトップの思いにも迫る。
(聞き手 ・ 日経トップリーダー編集長 北方雅人)

やすなが・ゆうげん
1954年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。英ケンブリッジ大学大学院経営学専攻博士課程修了。三和銀行(現三菱UFJ銀行)に21年間勤務後、米人材紹介会社ラッセル・レイノルズを経て独立。2006年経営幹部人材紹介・コンサルティングの島本パートナーズ社長。15年7月築地本願寺代表役員・宗務長に就任。法務に従事するとともに寺院運営管理や伝導布教活動を推進する(写真/菊池一郎)

経営者は信仰心が強いという印象があります。何かによりどころを求めるというのは、経営者の自然な姿なのでしょうか。

安永:自然な姿だと思います。

 私自身、築地本願寺の宗務長になる前は、銀行、ヘッドハンティング会社などを経て、社員数十人の経営コンサルティング会社の社長をしていました。

 自分の経験からも実感していますが、大学、大学院と国内外で経営学を学んできたものの、あくまで理論は理論。実際に社長になってそれを実践していくのは非常に難しい。どんなに力を尽くしても思うようにいかないことが理論を超えて次々と起こるわけです。

 そうした中で何が大事になるかというと人生哲学であり、死生観です。経営者たるもの、自分はなぜ生まれて、なぜ死んでいくのか。これを考えることです。

 自分なりの答えがあれば、どんな場合でも自分が立ち返るポイントになる。

 例えば会社が潰れそうになっても、自分は何のためにこの苦しい経営をやっているのか、だったらあれこれ考えるのではなくできることを今やろうなど、戻るポイントが必ずできてくる。

 これを持つことが大切なんです。その答えがなければ必ず、土壇場で慌てます。

 「売り上げ1000億円、一部上場して俺は年間収入10億円を目指す」みたいな外側の価値観だけで生きてきた社長は、その根本が断ち切られたときに、よりどころがなくなってしまいます。

 もちろん立身出世主義で生きてもいい。ただ、何のためにそうするのか、それを自分に問うことが大切です。

 外食チェーン、ゼンショー創業者の小川賢太郎さんは、世界中から貧困をなくすと本気で信じている。稲盛和夫さんや永守重信さんも、戻れるところがあるからやれている。宗教であったり、あるいは他人から見たら突飛なものを信仰したりしてもいい。

 自分なりのこうしたポイントがない経営者は、つい楽なほうに流れてしまうものです。やたら高額の買い物をしてしまったり不倫してしまったりと、会社の経営を差し置いてそっちに入れ込んでしまったら、間違いです。

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