このような由来があるので、例えば米リーバイストラウス&カンパニーなど海外の老舗企業は「創業者とその仲間たち」という社名になっているケースが数多くあります。森永製菓も英語表記はMorinaga & Co., Ltd.で「森永(太一郎)とその仲間たち」という意味なのです。創業者は米国にいたので英語とカンパニーの意味を熟知してこの英語社名にしたのでしょう。また創業者は「俺はマシュマロとキャラメルというおいしいお菓子を日本の子供にも食べさせたい、滋養を与えたいんだ。共感する者よ集まれ!」と言っているのです。

 理念を突き詰めて具現化したのが商品です。理念に合致し、持っている技術を最大限に生かせるものを作るのであれば、商品は時代や国によって、どのように変わっていってもいいわけです。

 そう考えることができる経営者と、それを実行できるプロが各部門にそろっている会社が海外事業に限らず強い企業です。反対に本業や理念をおろそかにした会社は消えていく。これも私の経験から得た教訓です。

現在やっていること、やろうとしていること

 現在私は、ある製薬会社で大変面白い商品の海外担当として海外事業戦略を実行しています。画期的なコンセプトと研究データと論文、そして特許技術を持つ素晴らしい商品で、日本発の世界スタンダードというカテゴリーを創造できる可能性を秘めた商品です。

 元外科医でもある社長の経営手法はビジネスの世界に長くいる私とは全く違う発想に基づいていて、大変ユニークで、大胆かつ新鮮なロマンあふれるものです。会社を革新するため外部から各部門のプロ人材が集まり、マーケティング、生産、海外事業などそれぞれの分野でミッションを全力で遂行しています。

 海外では無名ブランドですので、マンダム時代と同様に現地調査から始まり代理店選定、マーケティング計画、建値設定などはもちろん、中期の海外事業戦略を立案し、社内のルールや制度も修正し、海外事業戦略の遂行と組織改革を実行しています。

 今回は化粧品や菓子のように、カッコ良さやおいしさなど五感や情緒に訴えるのではなく、エビデンスに基づき、効能・効果や機能という価値を理解してもらって販売する商品です。そこでターゲットを徹底的に絞り込み、付加価値を伝えることができる現地代理店と提携して営業を推進しています。

 また新型コロナウイルスの感染拡大により、除菌衛生カテゴリーの需要が増しています。しかしこれが一過性のものにならないよう、じゅうたん爆撃方式のマスマーケティングではなく、的確に一人ひとりにターゲットを絞った狙撃(スナイプ)型のマーケティングを展開しています。

 この商品コンセプトは、ネットやSNS(交流サイト)による口コミで広がるマーケティングとの親和性が高いため、面白いようにハマっている状況です。

 マンダムと森永で培った経験を活用し、私がやりたかった理想の海外事業を目指して実行し、一気に世界市場でデファクト・スタンダード(事実上の標準)をつくり上げ、カテゴリーを創造したいと考えています。これまで経験してきた海外事業の集大成と位置づけて取り組んでおり、毎日戦略を練るのが楽しくて仕方ありません。また機会があれば、この成長戦略ストーリーをお伝えしたいと思います。

 30数年間いろいろな国や地域、そして複数の企業で仕事をしてきましたが、私がやってきたことと、今やろうとしていることは変わっていません。日本で売れているモノやコトを世界に正しく発信し伝える。また「海外事業は企業理念の具現化である」という哲学も変わっていません。それができる場ならどんなところでもお役に立ちたいと思っています。

 もう一つ「お役立ち」をしたいと思っているのが人材育成です。海外事業責任者として収益計画をしっかり達成しながら、次世代の経営者育成に重点を置いたOJTを実践しています。若手で経営と海外実務の両方ができる人間を育てることが使命だと感じています。将来、私が育成した人の中から海外で活躍するプロ経営者が何人か現れてくれる日を夢見ています。

(構成:鈴木素子、編集:日経BP総合研究所 サステナブル経営ラボ)

著者/山下充洋(やました・みつひろ)
 (写真:宮田昌彦)
(写真:宮田昌彦)

1964年生まれ。87年にマンダム入社。2001年マンダムインドネシア社長就任。08年マンダム執行役員、国際事業部担当兼国際事業部長就任。12年にマンダム退社後、同年森永製菓入社。森永製菓執行役員海外事業部担当。15年6月、森永製菓取締役上席執行役員 海外事業本部担当兼海外事業本部長。18年3月末森永製菓を退社し、同年6月から日経BP総研 中堅・中小企業経営センター 客員研究員。