マンダムと森永製菓で約30年にわたり海外事業の責任者や本社の海外担当責任者を務めた山下充洋氏の体験を通じて、企業の海外進出について指南する本連載。最終回となる今回は、総集編として、企業が海外事業を成功させるには何が必要なのか、上手くできない企業は何が足りないのかを総括する。
完璧なプランでなくてもまず動き出し、動きながら現実に合わせて戦術を整え、改善する。その繰り返しだ(写真:123 RF)
完璧なプランでなくてもまず動き出し、動きながら現実に合わせて戦術を整え、改善する。その繰り返しだ(写真:123 RF)

マンダムが持っていた成功への3点セット

 海外事業の成功の法則とは「海外事業に対する本社トップの信念」「担当役員の成功への執念と成長への情熱」「現地責任者の類い稀(まれ)な実行・行動力」の3つのセットだと私は考えます。それが当時のマンダムにはそろっていました。この3点セットを生かし、成長に導くのは「経営をする」「判断をして組織を動かす」「OODA=Observe(観察)、Orient(状況判断、方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)の実践」「従業員の幸せのために本当の優しさを持つ」といった情熱と志です。

 不振にあえいでいた国内事業の再建にメドが立ち、手を付けることができないまま放置していた海外事業を再興したい。当時、マンダムはオーナーのその夢と信念を右腕だった専務(後の副社長)に託し、海外事業を再開したのでした。専務はインドネシア事業を立ち上げた方であり、海外事業の成功に執念と情熱を持ち、かつ海外と経営の両方の経験を持つ「プロ」でした。

 もう一つの社長の英断は、将来の経営幹部を育てるために、若手社員を抜擢し現地責任者として海外へ送り、新規拠点の立ち上げから全てを実行させるという、大企業にはできない人事を行ったことです。

 これによって入社2年目だった私に白羽の矢が立ったのですが、プロである専務に若い頃から鍛えられた結果、私も海外と経営のプロになることができました。海外現法の現地責任者の能力は成否を左右する重要な要素ですが、現地での実践=闘いの現場が胆力のある人材、経営者を育成する舞台でもあるのです。

 現地が主体となりOODAを実行、より高速で回し、資本力の格差を縮めることで、マンダムのような規模の会社もグローバル企業と渡り合うことができるのです。どんなに緻密に調査して、データを読み込んで、シナリオを描いても、それはあくまでも計画であって予測と予想にすぎません。マイルストーン(=時期と到達点売上額/利益〈赤字幅〉)は明確にしつつ、完璧なプランではなくても、60~70%の段階でまず動き出し、動きながら現実に合わせて戦術を整え、商品を改善する。それを繰り返すことで市場が育ち、判断力、実力が養われていきます。

[海外事業成功の3点セット]
 ・本社トップの信念としての海外事業
 ・海外事業担当役員の戦略立案力と執念
 ・現地法人責任者の類い稀なる戦術実行力

[成功する現場にある志]
 ・管理ではなく経営をする
 ・臨機応変な判断で組織を迅速に動かす
 ・OODAを高速で回し続ける
 ・従業員の幸せのために本当の優しさを持つ

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