マンダムと森永製菓で合計約30年にわたり新興国事業の責任者や本社の海外担当責任者を務めた山下充洋氏の体験を通じて、企業の海外進出について指南する本連載。第8回はインドネシア編。社長に就任し新体制で経営の近代化を掲げてスタートをきった2001年。インドネシア国内では「ギャツビー」をメインに、ターゲット層のあらゆる経済階層、すべての民族の若者たちが購入したいと思う商品を開発。また鍵となる流通網づくりには広大で複雑なインドネシアならではの戦略も打ち出した。マンダムが実行したブランディングとマーケティング法とは――。

香りは数種類。サイズはLLからサチェットまで

世界一といわれる多くの島と多様な民族からなるインドネシア。国内市場の攻略にはさまざまなハードルがあった(写真:PIXTA)
世界一といわれる多くの島と多様な民族からなるインドネシア。国内市場の攻略にはさまざまなハードルがあった(写真:PIXTA)

 インドネシアに赴任して1年半。「ナンバーワンローカル企業から国際企業へ」という目標を実現するために、私たちは何をしなければならないのか、ビジョンを示し、幹部社員に考えさせて、話し合い、KPI(成果指標)を徹底させて従業員の意識改革を行いました。社名もマンダムインドネシアに変更し、新しい時代へとスタートを切りました。インドネシア国内と海外戦略を同時に始めましたが、今回はインドネシア国内事業についてお話しします。

 まずは、商品改革です。男性化粧品では、丹頂、ギャツビー、マンダムと3つのブランドがありカテゴリーも数多く抱えていましたが、今後はギャツビーに集中し展開カテゴリーも減らす。女性化粧品についても強いブランドに集約し、その下にサブブランドとしてシリーズにまとめるといった再編をし、ブランドとカテゴリーの集中と選択を行いました。

 その際に、ギャツビーのブランド調査を実施しました。「信頼」「価格の手ごろ感」「日本製」などの評価は高かったのですが、化粧品として一番肝心な「クール」「おしゃれ」「かっこいい」という項目の評価は低いものでした。要するに丹頂ポマードなどの昔のやぼったい商品イメージに引っ張られていて、日本製だから品質は良いだろうという安心感のブランドになっていました。化粧品メーカーとしてこれは危機的状況でした。

 ギャツビーは、コアターゲットを20歳プラスマイナス5歳とする若者向けのブランドです。このコンセプトは世界共通で絶対に変えてはいけない部分。また常にその年代の人たちが「かっこいい」と思うように、時代に合わせながら常に商品や表現を変えていかなければなりません。ですからもう一度インドネシアの生活者の心の中のイメージの刷新など「クールでかっこいい」商品に位置付けを「リ・ブランディング(再構築)」する必要がありました。

 ブランドのコンセプトとターゲット、それにもちろんロゴは変えず、変えるべきものは、デザイン・値段、それに香りやサイズなどです。主力アイテムをそれまでのポマードやヘアクリームから、トレンドのジェルやワックスに置き換え、宣伝にも外国人を使用するなど値段にそぐわないくらいオシャレなイメージを打ち出しました。

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