このままではPOSデータが下がり、定番からカットされてしまう。そこで小サイズにして手頃な価格でCVSの店頭を中心に展開して売れるようにしました。
本来の開発プロセスは抜きでした。企画書を作成し、使用予測や嗜好性、開発プロセスなどという段階を踏んで製品化するのですが、放っておいたら本社から融資を受けた数億円の資金も1年持たないでショートしてしまう状態です。市場が回復するまで様子をみるなどと悠長なことも言っていられず、即座に何かやるかしか状況でした。
「この一本で、会社を再生させるしかない。とにかく1日でも早く作って欲しい」と本社の専務に無理を言って、インドネシア工場で突貫工事で生産してもらいました。
本当に売れるのかどうか分からないのですが、メーカーとしては商品を出来る限り現地に合わせて開発して市場の生活者に問う以外に勝負する場面はありません。品質には自信がありましたので勝負が出来ました。
幸いなことにこの勝負は見事に当たりました。消費者の値頃感と、CVSというチャネルに商品と品質がマッチしたこともありますが、何しろ国中が停滞していて新商品などないし、既存商品ですら供給が止まっている時期でした。輸入品も納品が滞り、店内の棚はガラガラ。メーカーも宣伝に投資する余裕もなく、店頭に立つ美容部員の数も日に日に減って行く状況でした。そんな時に発売した値頃感のある新製品です。問屋さんも小売店さんも他に売る物がないので、ここぞとばかりに真剣に売ってくれました。
とはいっても、国の消費自体が落ちているので一店舗当たりの売上げなど回転数は低かったのですが、それ以上に導入数の方が上回っていったので、時をおかずして売上が伸びていきました。人員削減効果で固定費が劇的に下がっている上に大型の宣伝投資もしていませんので、利益が上がり出し、どんどんキャッシュが増えました。この有事にたった一品が会社を救ってくれ、ブランドも立ち上がりました。想定はしていたものの結果が出るのが早すぎると感じるほどで、奇跡のようでした。
当時の経済状況では、こちらが提案した店頭企画を組織小売業が盛り上げてくれました。問屋さんや小売店さんからの企画も、うちしか乗らないから様々なお呼びが掛かりました。するとセブン-イレブン以外のCVSや今まで導入出来なかった組織小売業にも商品が導入されるようになったのです。売れる商品を持つことで、やれば確実に売上げが上がる。営業も自信をもって突き進んでいくことができるようになりました。

「敵」がつまずいている時だからこそ伸びたというのもあるのでしょうが、流通改革、商品開発、マーケティングまで間髪を入れずに一気通貫で素早い状況判断と行動をできたことが、「ピンチをチャンスに変える」ことができた理由だと思います。
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