営業とマーケティングの現場は、どんどん自分から動くようになりました。今まで「数字だ、目標だ」などという言葉を聞いたこともない管理部門の子たちも、責任感が生まれ目の色が変わってきました。人は「仕事を任せられている」というプライド、会社として何としてでもここまで到達しなければいけない、ということを理解すれば、意識と行動、意欲が違ってくることを実感しました。

 といっても酷暑の国タイです、特に当時は基本的に人の行動はのんびりしていますし、働くスピードは決して早いとは言えません。極端に言うと日本人が1時間でできる作業が1日掛かるようなこともありました。初めに時間はかかりますが、目的とやり方を正しく理解させ、評価基準を示して、上手に従業員を動かしていくのが現地責任者の使命であり、腕の見せ所です。

 もう一つタイ人の特徴を挙げると「微笑みの国タイ」といわれるように、いつもニコニコして、非常に我慢強い国民性です。特に女性は我慢強く限界まで、ほとんど態度に出しません。その代わり「沸点」を超えた時には激怒します。常に従業員の言動や様子を観察して、何か不満を溜め込んでいないかを観察しておかなければいけません。爆発する前に気がついて、こちらから話を聞くなどコミュニケーションを取る努力が必要です。

 信頼関係が構築出来れば他のアジアの国に比べてジョブホップが少なく、長く働いてくれる人が多いので安心して事業展開が可能な国でもあるのです。

「微笑みの国」と言われ温厚な国民性といわれるタイだが、「臨界点」を越えると思わぬ展開にも……(写真はイメージ。写真:aflo)
「微笑みの国」と言われ温厚な国民性といわれるタイだが、「臨界点」を越えると思わぬ展開にも……(写真はイメージ。写真:aflo)

新製品1品にすべてを賭ける!

 直販流通から代理店流通への政策転換のカギは販売総代理店の選定でした。アジア通貨危機が起きて一度白紙に戻ってしまい、再度候補企業の調査と検討を行っていましたが、最終的にタイ最大手の財閥系企業CP(チャロン・ポカパン)グループ傘下の食品雑貨の販売会社と総代理店契約を交わしました。

 複数の候補企業の中から決め手となった最大の理由は、コンビニエンスストア(CVS)チェーンのセブン-イレブンを傘下に収めていたことでした。

 今後のタイの小売業の発展がCVS中心になることは他の国の例からも明白でした。そのCVSの中でもセブン-イレブンはタイで店舗数が群を抜いており、今後はさらに伸びていく事とCPグループの展開事業領域が通貨危機の中でも他の財閥と比べて比較的ダメージも少ない事も信頼出来ました。

 そこで、「セブン-イレブンで勝負をしたい。もし商品導入を約束してくれるならば販売総代理店にするが、セブン-イレブンの全店舗に1品だけ導入を確約して欲しい。」と条件を提示して交渉し契約を成立させました。

タイのコンビニエンスストア市場で最大のシェアを持つセブンーイレブン(写真:123RF)
タイのコンビニエンスストア市場で最大のシェアを持つセブンーイレブン(写真:123RF)

 「この1品」とは、代理店交渉とほぼ同時進行で開発していた50mlの「デオドラント・パフューム・スプレー(DPS)」というデオドラント効果があるガス噴射式の香水です。元々アジア各国では定番のカテゴリーとして発売されていた商品ですが、当時の経済状況から購買力が低下しており120mlのフルサイズでは、価格的にターゲットの生活者にとっては少々手を伸ばし難い環境になっていました。