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 さらに調べてみると、タイの合弁会社は創業以来赤字続きで、公認会計士の指摘通り決算書類を数カ所修正する必要がありました。結論として「評価損の計上はやむなし。ひいては債務超過になる」という厳しいものでした。詳細を本社の専務に報告すると、本社もようやく事態を理解し、現地事業の実態を報告しなかった現地執行者と本社の管理体制、その両方の責任が明らかになりました。

 しかし重要な問題はここからです。この合弁会社をどうするのか? パートナーにどこまで責任を取らせるのか? 取らせるとすればどうするのか? それともこのまま会社を潰すのか? この市場を捨てるのか……。

公認会計士から決算の承認が下りなかった。詳しく調査するとこれまで見えてこなかった経営実態が見えてきた(写真はイメージ。写真:123RF)

 会社というのは、帳簿上債務超過の状態になっても、どこかからお金を借りることができたり、支払いを延期できたりすれば、その間も事業自体は継続でき、存続します。

 そこで再建の選択肢として、1つは会社を潰さずに本社から追加資金を投入し、新しいビジネスモデルを構築し事業を継続する。もう1つはこの会社を潰す。市場については新たに別会社を設立するなど別途検討する、ということが考えられます。

 「潰さない」を選択する場合には、追加投資の資金調達に加えて、債務超過に陥った責任と、その会社にさらに資金を追加投資する理由、すなわち勝算を株主に対し明確に説明する必要があります。

 「潰す」を選択する場合には、出資金、貸付金、売掛金などを損失計上しなければなりません。出資者に大きな損害が発生します。当然責任問題に発展するリスクがあります。そんな苦渋の決断を迫られた本社経営陣の出した答えは「会社は潰さない。追加の資金も出す。だから絶対にタイから引かない」というものでした。

 タイの状況の調査にかかわった流れで、本社に戻った後、具体的な再建計画を検討するように専務から言われた私は、営業・販売・管理の体制および工場の品目削減と効率化による稼働率の向上を課題とする改善案を、人ごととしてまとめていました。

 既に本社へ帰国しており、私にとってタイの再建業務は本社の立場から支援するもので、現地には誰か他の人が赴任するものと思っていましたので、全くの人ごとだったのです。ところがその計画を専務に説明したところ、「再建策は考えたヤツが実行しないとうまくいかないものだ。お前がやれ」とご無体なお言葉! 急転直下タイへの赴任が決まりました。

 9年間の海外駐在を終え1996年の12月に帰国、帰国の歓迎会と年末の忘年会、正月休暇が開けてから新年会と連日の宴会が2カ月ほど続き、そのまま今度はタイ赴任の壮行会となり、97年2月に2度目の海外赴任となりました。シンガポールから帰国してわずか3カ月後の出来事でした。

パートナーや現地従業員はもちろん、他方面の社外有識者との関係構築が成功のカギ

 決算処理から企業再建計画の実行まで、タイに赴任した当初、毎日のようにコミュニケーションを取っていたのが公認会計士や弁護士など、社外のブレーンの先生たちでした。一連の対応で、本当に会社にとってなくてはならない存在であり、しかも普段からこまめにきちんとコミュニケーションをとって、意思を示し、現状のリスクや課題の難易度を説明し、プロである彼らのアドバイスと注意点を聞くことで、自分の経営執行に対する信用を高めておくことの大切さを実感しました。