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 「こうなったら禁じ手を使うしかない」。私は本社に内緒で現地のOEMメーカーを使って2in1シャンプーとボディーソープを製造し、「Pure-Day(ピュアーディ)」いう単独ブランドで販売しました。もちろん現地駐在員であり、営業部隊の人間が商品開発をやるなどもっての外です。当然、販売開始後に本社に知られて、幹部たちは「アイツは何やっているんだ、この野郎!」と怒り心頭です。私はこうなることを承知して、わざと地雷を踏んでタブーを犯しにいきました。確信犯として実行し、あえて問題を起こしました。

シンガポールほど高額な商品が売れないマレーシアで流通量を増やすため、商品開発をめぐって本社と激しい衝突を重ねた。そしてついに「禁じ手」を……(写真:123RF)※写真はイメージです

 当然のごとく、本社担当役員からそれはもう激しく、怒鳴り声が出なくなり、力尽きるまで怒られました。これも想定内でした。本社担当役員が力尽きたころ私は真意の説明を始めました。

「いくら依頼し続けても動いてくれませんでした。作ってもらえないのなら自分で作るしかなかった。流通からの信頼を得るために、今の勢いを維持するために、そして経営効率を高めるために、リスクを十分に計算した上での行動です。経営者としての判断です」

「実際、商品は在庫にもならず予定通りに売れて、問屋がギャツビーの値引きを要求された時の代替商品になって営業現場が助かっているんです。市場開拓時期の現場にはこういう経営判断が必要なのです。生きて行くためなんです」と、現状や自分の思いを全てぶつけました。すると担当役員も冷静になり、最後には本社ブランドで同じ商品を作ることを約束してくれました。

 もう一つ同じ手を使ったのがテレビCMでした。テレビCMは投下するタイミングが重要で、数千万から億単位の資金を投下しないと効果が上がらず意味がありません。しかしうまくいけば一段階上の事業規模に上がれます。

 ちょうどその頃「ウォーター・グロス」という商品がリニューアルされて売れ始め、「これは勝てる!」と自信を持っていましたので、本社に内緒でテレビCMを製作し、放映しました。これもこのタイミングでやらなければいけないと考えて、時期を見定めて、予算をやりくりして、実行しました。これも当然確信犯で本社には事後報告でした。

 するとまた烈火のごとく怒られるのですが、散々怒られた後に、いろいろと説明をすると、最後には「分かった」と一言言って、テレビCMの制作費を本社が負担してくれました

 最終的には商品の件も宣伝の件も理解してもらえ、結果的にどちらも売り上げ拡大につながったので良かったのですが、このような禁じ手を使うのはもちろん組織人として許されるものではありません。

 ですが、私は本社や役員と揉めることも、叱責を受けてめちゃくちゃ怒られる恐怖や自分に対する評価よりも、現地法人にとって、現地の従業員にとって、そして現地市場の生活者にとって、今やるべきことは何か? 今やれることをすべてやっているか? という使命感と責任感の方が勝っていました。

 心の底では、「本社の開発やマーケの人間に今の現地が分かるのか!」という気持ちもありましたし、現地を任されていることを強く自覚して、責任者として行動した結果でした。

 今になって思えば、こんな行動を最後は面倒を見てくれて、許してくれて、その後も大きな仕事を任せてくれた当時の本社の担当役員がいてくれたからこその話であり、感謝しても感謝し切れません。

 私がシンガポールとマレーシアに赴任して身をもって分かったことは、本社から見れば私は一社員であるけれども、現地法人の社員から見ればボスであり上司であり、経営責任を負っている者だということです。ただ任期をうまく乗り切ればよいのではありません。従業員の生活がかかっていますし、自分がいなくなった後も彼らが将来ずっと食べていけるようにする責任があります。

 現場の人間が一番よく分かっている適切なタイミングで、的確な判断をしなければならない時に、いちいち本社にお伺いをたてて回答を待っているようでは現地の市場も従業員も守れません。「禁じ手」を使おうが本社と対立し担当役員に怒られようが、その覚悟を持ってやっていました。本社も現場を理解して、時代の変化と意識改革をしてもらいたいという期待からです。