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目的と収益構造、政治的状況を考えた戦略を

 こうして、マレーシアではシンガポールのように輸出入から営業、マーケ、ロジスティクスまですべてを自社で構えてやっていく戦略ではなく、外部のリソースを活用するところ、投資すべきところ、売り上げを稼ぐところ、利益を上げるところ、と目的と収益構造を考えて事業を構築していきました。

 マレーシアはシンガポールを見ていますし、マレーシアの地方の町はクアラルンプールを見ています。クアラルンプールの組織小売業で企画した景品付き特売企画などを翌月地方部で実施すると、地方の問屋は都市部の組織小売業で当たった企画であれば喜んで実施してくれました。

 全土の小売店を網羅する問屋流通網を構築し、地方の町でも認知してもらえるような努力を最初に行っていたことで、ブランドの知名度が上がれば上がるほど売り上げも拡大するという良い循環ができあがっていきました。

 マレーシアでは、展開から5年目の1996年ごろには「ギャツビー」のターゲットである20代前後の若者たちの間で認知度が80%を超えていました。現在、東南アジアでの認知度は100%近くあると思います。

 その時の目的に合わせて、正しい事業体制を設計することは大切です。例えば、同じ目的で進出しても、最初に自分たちの足で自前の流通網を開拓せず、すべてを代理店まかせにしていたら当初はスムーズに進んでも、中期的な結果としては違ったものになっていたはずです。

 代理店の多くは、大きく利益が出せる販売店を扱いたがるので、小売店と量販店や組織小売業を合わせて販売することを要求してきます。そうすると宣伝販促費や本来は問屋が負担すべきその他の諸経費までメーカーに請求し、自分たちの利益を確保しようとする。そうなると市場開拓やブランド定着に必要な作業に労力を割かなくなるといったことも起こります。見えないところが出てくると不信感の原因になり、将来のトラブルの種にもなります。

 また、少額の取引で手間がかかる小売店に対してあまり営業努力をしないことも多く、地方に行ってみると商品が並んでいないケースや、地方部で浸透しないために売り上げが伸びず、営業政策を見誤るなど事業不振に陥るケースを結構見受けました。これから進出していくメーカーの皆さんはお気を付けください。

 さらに、戦略と事業計画を立てる際には、その国の政治や地政学的な状況も考えなければなりません。マレーシアでは当時「ブミプトラ政策」、いわゆるマレー人(非中華系)を経済的に優遇する「マレー人優遇政策」への対応が必要でした。

 例えば、会社設立には国内資本比率が51%以上、またマレーシア国籍の株主が最低2人、取締役にも最低1人はマレー人がいること、工業用地の外国企業による購入は不可、など多くの規制がありました。規制をクリアするためには、多くの企業は費用を払い、弁護士事務所や会計事務所を通じてマレーシア国籍を所有するマレー人に名義を借りていました。

現地での法人設立には役員にマレー人登用を義務づけるなど、マレー人を優遇する「プミプトラ政策」への対処も必要だった(写真:123RF)※写真はイメージです

 その際に個別に「権利の主張をしない」など取り決めをしておくのですが、法的効力が弱く、後で約束を反故にされたり、裏切られたり、結果、不動産や会社そのものを持って行かれたりという事件をしばしば耳にしました。

 幸いにして私の場合はシンガポールのパートナーがいましたので人脈には事欠きませんでしたが、このような事件やリスクを回避するため、またシンガポールの宣伝販促費用を捻出するという本来の目的もあり、マレーシアには利益や資金を残さず、可能な限り利益をシンガポールへ移すようにしました。具体的な方法としては、私の給料の一部を負担させる、経営指導料としてコンサルタント料を請求する、運転資金を貸し付けて金利を取る、などです。資本金もできるだけ小さくして、シンガポールに利益を吸い上げ、シンガポールでの宣伝販促に活用しました。