中小企業駐在員に必要な資質は「情熱(やる気)」「笑顔(人柄)」「鉄の胃袋(抗ストレス)」

 こうして、現地に根を張るために毎日のように宴会に出ていたおかげで、業界を超えてどんどん人脈が広がり、思想が広がり、仕事でもネゴシエーションがうまくいくようになりました。高騰していく物流費に関しても「ボスの友人の会社です」と言うだけで、通常ルートで交渉していたらまず不可能だった価格に抑えてもらったり、供給タイトな原料を優先的に回してもらったり、それまでにない価格で景品を作ってもらったりすることができました。

 親しくなった人が実は大物だったことが判明して驚愕(きょうがく)することもありました。入り口である飲み会から華僑社会に入り込んでネットワークを構築していたので、相手も私を身内扱いしてくれました。華僑のビジネスというのは、肩書がはじめにあるのではなく、友人として認められた上で肩書が必要になる社会です。このことを前提とした「友人の紹介」が一番強いのです。

 今あの時代を振り返っても、これまでに出会ったさまざまな人を見て考えても確かなのは、駐在員に向いている人というのは、まず先にも述べた笑顔と鉄の胃袋があって、前のめりなぐらいの行動力のある人です。もちろん英語が話せるのは必須ですが、できなくてもこの要素を持っていることが大事だと感じます。国内のエースの中から、この人柄なら海外でもイケる!といった人材をしっかり選別して海外に送るべきです。

 何が何でも現地に溶け込み、根付いていかなければなりません。現地では小手先の技術や薄っぺらい人格はすぐにメッキが剥がれますし、現地の人たちが何を、どこを見ているのかというと、やはりそれはベースにある「人柄」なのです。

 当時は中小企業だったマンダムが、アジア諸国で大手企業とがっぷり四つにやり合えた理由の1つは、駐在員の正しい人選にあったと思っています。当時の社長や専務はその大切さが分かっていました。一般的に日本企業の駐在員任期は3~5年と言われていますが、現地になじんで仕事ができるようになるのに3年、本当に根を張って仕事がうまくいき出すのが5年目ぐらいからです。当時のマンダムの駐在員任期は少し長く5年でしたので、他社で見かける着任早々に帰国の日を指折り数えるような駐在員はいませんでした。

毎月の1000本ノックに鍛えられた

 無我夢中で走り続けたシンガポール時代。私をここまで成長させてくれたのは、当時の専務(後に副社長)でした。毎月シンガポールに立ち寄り、その際に財務状況から、その日の金利に関すること、営業現場の数字や動向、現地の政治や経済まで毎回いろいろな質問をされました。はじめのうちは私も準備をしていても全部は即答できませんでした。一生懸命説明してもダメ出しされる。すると来月また来る時までに宿題が残ります。翌月万全に準備したつもりで臨むのですが、次は次で全然違う質問がきて答えられない質問が残る。また次までの宿題になるというのを繰り返していました。

 毎回ボコボコに打ちのめされるのですが、同時に経営だけでなく、時事問題や商談の仕方、アジア各国の歴史、社内の歴史、知るべきことからやるべきことまで、あらゆることを話して、教えてくれました。物事の考え方の中心に何を置くのか? スタッフの給料や商品の値付け、ローカルの感覚を身につけることや、華僑との人脈づくりの大切さ、そして経営感覚を身につけるために必要な要素を教えてくれました。

 私は言われた「やるべきこと」を毎日朝から晩まで必死になって考えて、実践し、経験していきました。でも不思議なことに全く疲れを感じませんでした。若かったこともありますが、それ以上に毎回の会話に知的好奇心が刺激され、仕事が楽しくて楽しくてしかたがありませんでした。そうやって毎月1000本ノックを受けているうちに、新聞記事をどう読み、現地の人脈から得た生の情報を事業に、運営に、どう生かして会社を動かしていけばよいかが分かるようになっていく自分を実感し、自信をつけていきました。

専務による「1000本ノック」は最高のトレーニングだった(写真:123RF)※写真はイメージです
専務による「1000本ノック」は最高のトレーニングだった(写真:123RF)※写真はイメージです

(構成:鈴木素子、編集:日経BP総研 中堅・中小企業経営センター

著者/山下充洋(やました・みつひろ)

1964年生まれ。87年にマンダム入社。2001年マンダムインドネシア社長就任。08年マンダム執行役員、国際事業部担当兼国際事業部長就任。12年にマンダム退社後、同年森永製菓入社。森永製菓執行役員海外事業部担当。15年6月、森永製菓取締役上席執行役員 海外事業本部担当兼海外事業本部長。18年3月末森永製菓を退社し、同年6月から日経BP総研 中堅・中小企業経営センター 客員研究員。
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