こうした政策や戦略は当初はぼんやりとしたものでしたが、後に「3次元の(立方体の)ビジネスモデル」として整理しました。そのイメージは、以下のようなものです。

X軸=自社の機能としての幅

Y軸=取り扱う商品カテゴリーの幅

Z軸=取引先(小売業)の業態の幅
■3次元の(立方体の)ビジネスモデル
■3次元の(立方体の)ビジネスモデル
[画像のクリックで拡大表示]

 上の図のような、XYZの3軸の立方体を想定してみてください。X軸は自社の機能としての幅を意味します。当時私はシンガポール事業の責任者として、メーカーとしてブランディングをするほかに、配送・営業・回収など「問屋」としての機能を併せ持つところまで実現しました。さらに、新商品のテスト販売や廃番商品の在庫処分ができる機能を持つ、直営の小売店までも用意したいと思っていました。

 一方、Y軸は取り扱う商品カテゴリーの幅を指し、商品の幅をできるだけ拡大することを心がけました。ギャツビーなど自社の一般化粧品のほか、他社の日用雑貨品、そしてプレステージの高級化粧品も扱えるよう努めたのはその一環でした。

 最後のZ軸は取引先(小売業)の業態の幅を意味しています。高級百貨店・デパートや、GMS(総合スーパー)・CVS(コンビニエンスストア)などの組織小売業、そして「パパママストア」と呼ばれる小さな販売店までを、幅広く営業の対象としました。

 このXYZの3つの軸がそれぞれ長くなり、立方体(上図の点線部分)が大きくなっていけば、ただ単純に商品を販売する1メーカーの現地販社から脱却して、事業ははるかに重層的かつ機能的になります。会社の組織や機能が立体的になり、あらゆる情報や経験やデータが効率的に生かされ、売り上げ規模以上に存在感の強い企業になることができると考えました。複数のカテゴリーやブランドを有していることにより組織小売業への影響力も上がり、優位に扱っていただけるようになりました。

 さらに、他の日系メーカーからも「ぜひ、うちの商品も扱ってください」と頼まれるようになっていきました。問屋業を始めた最初の頃こそ、日本国内でマンダムと一部競合しているため取り扱いを躊躇(ちゅうちょ)する日系企業もありましたが、しばらくすると「同じ日系企業だから安心できる」と言ってくれるようになっていったのです。

 結局、X軸の最終地点である「自前の小売店を持つ」ことは私が現地にいる間に実現できませんでした。店舗数は少なくてよかったのですが、直営店に新しい商品をテスト販売するアンテナショップとしての機能を持たせたり、色々な販売プロモーションをテストしたり、廃番や過剰在庫になった商品を特価で販売する機能を持たせたり──常に現地の消費者の感覚に触れるようなお店を持ちたかったのですが、それは次世代に託しました。

自分がいなくなった時のことも考えておく

 海外現地法人の責任者は、いつか自分がいなくなった後のことも、常に考えておかなければなりません。私は自分のいなくなった後のシンガポールで、どのように事業を継続させるかを考えていました。その結果、前述の3次元のビジネスモデルを構築できれば、単なる販社ではなくて強力なマーケティング機能を持つ一味違った企業として存在価値を得られ、自分がいなくなっても組織は十分に機能すると考えたのです。

 また、こうした立体的なビジネスモデルを模索する過程で得た思考や知見が、その後マレーシアほか東南アジア各国に進出し、市場を開拓し商品の流通量を増やしていく際にも大変役立ちました。

次ページ 成長を継続するために「新たな成長市場」を確保する