バランスシートをチェックした時、売れていない商品在庫がたくさんあったり、数カ月動かない商品が数万ドルもあったりした場合なら、半額でも3分の1の値段でもいいから売り払って、着実に現金に変えていく。売掛金の支払いまでの期間を、営業担当者に短縮する交渉を指示する。もちろん、「2カ月後の支払いを1カ月後にしていただけるなら、これだけ割り引きします」といった「おみやげ(歩引き)」を提示して交渉させる。このような改善を施策として続けていると手元キャッシュが増えていくわけです。

 また並行して、さまざまな財務ルールを策定していきました。例えば「全体で在庫は2カ月分以内で抑えること」、「売掛金の支払いを早めてくれるなら○%までディスカウントOK」、「キャッシュ販売に対しては、営業担当者へのインセンティブを2倍支給する」などなど。それらの施策が実行されて浸透していくと財務諸表が改善され利益を生んでいきます。そうすると営業担当者もみずから積極的に動くようになりますし、現場でさらに厳しい交渉や管理をやってくれるようになります。その好循環のおかげで手元のキャッシュもドンドン増えて経営が安定していき、「これで資金ショートで会社を潰さなくてすむなぁ」とほっとしたのを覚えています。

決算書は「成績表」であり「芸術作品」

 このようにシンガポール駐在員としての自分の仕事は多岐にわたりましたが、新たな戦略を練り、様々なアイデアを試行錯誤して、自分が取り組んだことが「正しかったか否か」を客観的に測るものは何かといえば、それは「月次決算書」でした。特に資金繰りで痛い目にあった後は、自分の判断や戦略の効果測定の基準を徹底して財務諸表に置きました。これは私の思考のブレをなくし、迅速な経営判断を下すための、強力な武器となりました。それ以降、海外でどこの国のビジネスパーソンと商売をしたときでも経営判断を大きく間違えることがなかったのは、「財務諸表を基軸にしたおかげ」と断言できます。

 当時の私には、名の知れたグローバル企業のように大規模な宣伝を打つ資金もなかったため、足元を見つめて細かい販促をし、店頭を充実させることを継続するしか戦うすべがありませんでした。様々な試行錯誤を重ねると同時に、目線を上げてその結果を確認する日々でした。「来月はこのチェーンストアに流通させる」「その次はこの業態をターゲットにする」「今後は、このカテゴリーを攻略しよう」「次はこの商品を発売しよう」……などと毎月いろいろなことを試み、その答えを確認するツールが財務諸表を中心とした月次の各資料でした。

 このため私は毎月誰よりも早く月次の資料を見て、確かめたくて仕方がなかったのです。数字を見て自分の選択した施策が「正解」だったと分かったら自信を深め、もっと大胆な施策をやってみる。逆に効果が出ていなかったら反省し、やり方を変えてまた手を打つ。結果がわかり次第、即座に次の戦略に取りかかることができるようにしていました。

 決算書の数字は私にとっての羅針盤であり成績表。そして、株式を公開して上場すれば、その決算書(作品)は株式市場で投資家が価値(値段)をつけてくれる「芸術作品」になるのです。決算書なしの企業は羅針盤のない船のようなものであり、難破してしまう可能性が高い。経営にとって決算書は、なくてはどんな判断もできないほど身近で重要なものです。現地の執行責任者は月次決算や報告書などの数字を暗唱できるくらいにまで把握して、自分の事業戦略を立てていく習慣をつけるとよいと思います。

(構成:鈴木素子、編集:日経BP総研 中堅・中小企業経営センター

著者/山下充洋(やました・みつひろ)
(写真:宮⽥昌彦)
(写真:宮⽥昌彦)

1964年生まれ。87年にマンダム入社。2001年マンダムインドネシア社長就任。08年マンダム執行役員、国際事業部担当兼国際事業部長就任。12年にマンダム退社後、同年森永製菓入社。森永製菓執行役員海外事業部担当。15年6月、森永製菓取締役上席執行役員 海外事業本部担当兼海外事業本部長。18年3月末森永製菓を退社し、同年6月から日経BP総研 中堅・中小企業経営センター 客員研究員。
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