最近、事業を成功に導く方法として、「PDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)」ではなく、スピード重視の「OODA(オブザーベーション・オリエンテーション・ディシジョン・アクション)」が提唱されています。PDCAサイクルでは、最初に「計画」を立てることに時間がかかり、その計画が外れると非効率を生むというマイナスの側面があります。それよりも激変し続ける環境においては、とにかくまず現地の実態をオブザーベーション(観察)し、本物の情報を得てからオリエンテーション(方向性)を決め、大きな間違いがないことだけを確認したら、迅速なディシジョン(意思決定)を行い、すかさずアクションを起こす。そして一歩進んで観察をし、またオリエンテーションを行い、意思決定をして、前に進む。この「OODA」を高速で繰り返すことにより、前進しながら変化にも対応できる──。

 結果的に当時私は今はやりのOODAを実践していたことになります。現場に行って観察して、方向性を決めて、「こうかな」と思ったら取りあえずやってみる。例えば「価格が高かったかな」と思ったら、特売を打ってみて反応を確認する。半歩進んだらまた周りを観察して新たな行動を起こし、また半歩進んで……という具合に「小回り」をきかせていくのです。マーケティングの分野だけではなく、人事、採用、流通……どの分野をとっても同じ思想で運営していました。

今はやりの「OODA」を、30年前にすでに実践していた(写真:123RF)
今はやりの「OODA」を、30年前にすでに実践していた(写真:123RF)

 ある他の日系企業の現地駐在員に「御社のあの商品は、今ならシンガポールでいくらでも売れますよ!」とアドバイスしたら「いやぁ、あれは来年かなぁ~」という悠長な言葉が返ってきて驚いたことがありました。なぜ今すぐやらないのだろう? なぜ待つ意味があるのだろうか? 早くやればやるほど大きな結果が期待できるのに……。まったく理解できませんでした。

 「なぜ今、自分が海外の現場にいるのか?」という意味を理解していないとしか思えません。「来年やる」などとのんきなことを言っていては変化の激しい市場ではチャンスを失い、敵に勝つことなどできません。特に中小企業が大企業と勝負するには、臨機応変に行動を起こして、素早く修正を加えながら前進していくしか勝ち目はないのです。

 約30年前、宣伝に巨額投資することによる一発勝負を狙うのではなく、小さなサクセスを細かく積み上げて、信頼関係、自前の流通網、勝ちパターンなどを私は構築していきました。その結果、急成長を遂げていた当時のシンガポール市場の大きな波に乗ることができ、競合よりもわずかに前に出ることができました。現地での現状分析と本社の素早い経営判断という体制を築けていたことも、業績や成果に大きな影響を与えたと思います。

黒字なのに倒産? 知識が腹落ちした経験

 このように、当初から「攻めの姿勢」だった私ですが、徐々に販売量が伸び、単月で黒字が計上できるようになった頃、冷や汗をかいたことがありました。それは「資金繰り」です。

 ある朝、財務担当の現地人女性社員から「ボス、お金が足りなくなります」と言われ本当に驚き、「今月はすでに損益分岐点を超えているし、宣伝への投資も通常レベルだし、利益は出ているだろう?」と返事をすると、「明日、明後日でアレとコレの支払いをすると、金曜日に従業員に給料を払うための現金が足りません……」と言われました。

 20代半ばの若造だった私の部下は、全員私よりも年上の経験を持った人たちでした。私の精神的な「拠り所」は、ほかの現地人部下たちより年齢は若いけれども、自分が責任者であって、自分が戦略決定をして利益を出し、きちんと給料を払っているという「事実」と「自負」だけでした。言い換えれば給料を払っているからこそ、従業員は最後には自分の言うことを聞いてくれる。もし、給料が払えなくなったらどうなるかを想像すると血の気が引きました。

企業経営においては、利益と現金(キャッシュ)とは必ずしも一致しない。「キャッシュフロー」を考えておかないと、利益が出ていても手元の現金が不足して倒産してしまう(写真:123RF)
企業経営においては、利益と現金(キャッシュ)とは必ずしも一致しない。「キャッシュフロー」を考えておかないと、利益が出ていても手元の現金が不足して倒産してしまう(写真:123RF)

 すぐに車に飛び乗って当時一番かわいがってもらっていた問屋の社長さんのところに向かい、期日前の支払いをお願いしました。「お前、資金繰り見てなかったな?」と笑われました。なんとか小切手を切ってもらい、綱渡りで苦境を乗り切ることができました。そこで改めて決算書を見ると、損益計算書とバランスシート(貸借対照表)の間に「キャッシュフロー」というものがあることに気づきました。もちろん知識としてはすでに知ってはいましたが、本当の意味を実体験からようやく理解したわけです。資金繰りとはこのことだったのか──。黒字倒産や「勘定合って銭足らず」といった格言の意味を身体で実感して理解しました。

 キャッシュフロー経営のポイントは3つで、①「利益を上げる」、②「無駄な商品を仕入れない」、③「商品代金(売掛債権)を1日でも早く回収する」──。当たり前のこの3つを実践することでしか、キャッシュフローは改善しません。同時にこの時の経験を契機に、営業担当者のインセンティブを売り上げベースから回収ベースへ変更したり、「歩引き(期日より先に支払ってもらう分、支払額を割り引くこと)」の手法といった財務知識を営業システムに落とし込んだりと、事業執行を具体的に改善していきました。

次ページ 決算書は「成績表」であり「芸術作品」