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次の一手があれば教えてください。

井口:当社のデータベースを運用しているシステムを「知財システム」と呼んでいますが、2021年にこれを外販することを考えています。このシステムを使えば、日本の、中小企業でも大企業でも、技能の承継がしやすくなるはずです。

 大量生産ならできる国は多くありますが、高度な技術力が要求される、日本にしか作れないものがあります。しかし多くの日本の製造業では、技能者が高齢になり、廃業を余儀なくされるケースが増えています。廃業すればノウハウが途絶えたり、海外に流出したりします。知財システムはこのような損失を食い止めることもできると思います。

 知財システムで運用できるデータは加工に関する数値だけでなく、映像の形での知識などあらゆる情報をデータベース化できますので、例えば営業職で、こういったお客様にはこう対応しようといった場面でも使えます。

 営業の社員によく言うのですが、米国に営業に行くなら、保守的キリスト教のことを理解しておけよと。それを知らないと米国では本当の友達にはなれないからです。相手を知るには、相手の考え方のベースを知っておく必要があります。当社の知財システムの中には、こういった知識も入れているんです。

 外販するときは、基本的にはシステムの枠だけを販売します。データは皆さんがお持ちのデータを収めてもらい、それを有効活用していただければよいと考えています。当社のデータに松竹梅を付けるとすれば、竹や梅のデータは価格によっては提供してもいいかなと考えています。

我が社はIT企業なんです

中小企業としても、製造業としてもユニークな会社ですね。

井口:当社は今やIT企業なんです。周囲からどう思われるかは分かりませんが、データベースを基にコンピューターを使って製品を作っているからです。

 今後はAIを導入するつもりですが、AIには限度があるようです。AIからはイノベーティブなものは生まれません。新しいサジェスチョンを得て、新しいものを作るのは人間独自の技能だと思っています。データベースから「こんなものができるかもしれない」とインスピレーションを得るのは人間だけです。

 知財システムは人間のための補助ツールです。このツールを活用すれば、既存の製品ならデータに沿った設定でそのまま作ることになりますし、これまでにないことをしようとすれば、そのための多種多様な知識を得られることになります。

 人間がする仕事は、ものを作ることそのものではなく、もっと創造的なことだと思っています。私たちはイノベーションを起こせる人が働ける環境を整えようとしています。単純に言えば「遊びに行ける会社」です。私は、日本の多くの会社がそのような会社になることにも一役買えればと考えているのです。

イノベーションを起こせる人材とは「やめずにやり通し、かつ物事のポイントをつかめる若い人」という井口一世社長。写真の、井口氏の左にある機械は最新の高性能検査器(写真:清水真帆呂)