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現在、力を入れていることを教えてください。

井口:素晴らしい人材を集めています。

 今、私たちの会社の社員は約7割が女性です。平均年齢は33歳です。なぜこのような人材を集めているかといえば、そういう時代だからです。これからの製造業は、熟練の職人を育てるのではなく、データを使ってイノベーションを起こせる人材が必要です。

 当社には工学系の社員がほとんどいません。乱暴に言えば、文系人材はものづくりの理屈が分かっていませんので、ある製品を作るためのアプローチが複数あれば、それを全て試すんです。一方で工学系の理論を学んできた人たちは「ここら辺がちょうどいいはず」と見当が付くので全部は試さない。

 結果、ちょうどよくはないところに、とんでもなくいい条件が見つかることがあるんです。これがイノベーションですね。

井口一世では、新しい時代のものづくりの現場を実現している。同社では、3Kの排除はもちろん、若い“文系女子”が工作機械を操作する(写真提供:井口一世)

物事のポイントをつかめる人材が必要

文系人材は、どのような基準で採用しているのでしょうか。

井口:採用基準はいろいろありますが、例えば、勝手に自分で勉強する能力、物事を概念化できる能力を重視しています。概念化とは、ポイントをつかむことです。

 昔、松下幸之助さんが、成功の秘訣は成功するまでやめないこととおっしゃいましたが、当社ではやめずにやり通し、かつ物事のポイントをつかめる能力のある人を採用しているのです。これだというポイントをつかむ能力は、教育ではなかなかカバーしきれないといわれています。

 ですから、これらの能力を持ち合わせている人を探し出せる試験をします。今、新卒採用は5次試験まで用意していますが、多面的な問題を用意しています。今年も4月に5人入社しましたが、偏差値の高い大学から採用できました。

新型コロナウイルスの影響で状況は変わるかもしれませんが、中小企業は新卒採用に苦労して、高齢者や外国人の雇用に望みをつなげるなどしています。

井口:そろそろ私もついていけない時代になっています。技術は日進月歩ですから、新しい人たちによる新しい加工法が出てくるわけですが、それを邪魔するのが過去の実績や経験です。常に優秀な若手が必要です。

 私たちは人材評価も独特のシステムを使っています。「スキルマップ」と呼んでいる人事システムには、社員を評価する600以上の項目があり、誰がどんなスキルを持っていて、どのような仕事ができるかが分かるようになっています。これに基づいて配置転換したり、給与を決めたりしています。

 私も、中小企業は人手不足という話をよく耳にしますが、分析してみると採用にかけるコストが少なすぎるのではないかと思います。大手は1人当たり50万円から100万円の採用経費をかけているでしょう。

 優秀な人材を集めるには満足のいく給与も必要です。当社の給与は1年目の社員が年収350万円です。年間3回ベースアップして、3年で約500万円、5年で700万円ぐらいになります。皆すぐに家を買います。

 当社の社員はいいクルマにも乗ります。実は、社員に外車の購入を奨励しているのですが、会社見学に来る学生が工場の前に止まっている外車を見れば「この会社の社員はこういうクルマに乗れるんだ」と思うでしょう。これも採用活動の一環です。