全6435文字

顧客は付き合いのあるところから増やしていったのでしょうか。

井口:付き合いのあるお客様から口コミでお客様が増えるということもありましたが、マーケティングについても熟慮しました。

 まず、第一印象が強い会社にしようと、社名も業務内容も、一度聞いたら忘れられないものにしました。ところで今日、当社に来るとき看板がなかったでしょう? 当社を訪問される方は皆さん迷われて「あ、ここだ」となる。これで非常に印象に残ります。

 とはいえ現実には、お客様が増えるのには時間がかかりました。最初は誰からも信用されないからです。転機は、2006年に埼玉県が主催した「第1回渋沢栄一ベンチャードリーム賞」の奨励賞を頂戴したときです。

 このコンテストの最終審査では、周りの皆さんはちゃんとスーツを着ていましたが、私だけ白い作業着で結構目立ちました。私たちの本社は東京にあるので、一次審査では落ちてしまったのですが、推薦してくれた銀行に強く推していただいて、敗者復活のような形で最終審査に残りました。

 冒頭でも触れましたが、金型なしで部品ができるということは、部品製造のための初期投資が必要ないということです。複写機でも、最初の金型コストは30億円ぐらいに上ります。私たちはこのメリットをコンテストで訴え、受賞しました。3番目の賞でしたが、プレスリリースもしていただき、金型なしのものづくりが認知されるきっかけになったのです。

受賞が2006年ということは、創業から5年たっていますね。

井口:そうですね。2人で立ち上げて年1600万円の売り上げから始まって、受賞した頃には8000万円程度の仕事をしていました。メンバーは4~5人です。ここから仕事が広がっていきました。

 その後も、幾つかのコンテストに応募していろいろな賞を頂きましたが、やはりこの最初の賞がうれしかった。対外的に影響が大きかった受賞には「Japan Venture Awards 2013」の経済産業大臣賞もあります。

 今では、航空宇宙や防衛、医療、重電、あらゆる業界の企業・団体から注文を頂いており、45人で108億円の仕事をしています。

 製品は小さいものがほとんどです。大きな製品は協力企業と一緒に作ります。金型なしなら納期も早いし、変更もできます。ただし1個当たりの価格は少し高いですよ、というビジネスモデルで仕事をしているのです。製品は1個何銭というものから、何百万円というものまであります。

製品は主にレーザー加工やパンチ、ベンディング(曲げ加工)で作られる。金型を使わない、できる限り切削しないことで、顧客に対してコストと時間を切り詰めた製品提供ができるという(写真提供:井口一世)

顧客の困り事の先に市場がある

金属加工ならどのような仕事でも受けられるのでしょうか。

井口:頂ける仕事は全て引き受けます。金型を使ったほうが有利になる大量生産の仕事は協力会社にお願いしますが、基本的には全部やります。それが営業方針です。

 お客様が、あらゆる製造業に依頼しても作ることができず、困っている仕事も引き受けます。困難な仕事を受け入れることの意義は大きいんです。実は、こうした仕事こそが企業秘密になるような仕事であることが多い。お客様が、5年後、10年後に発売する開発中の商品の部品だったりします。

 試作は全て無料です。出来が良ければ採用してくださいというスタンスです。試作にお金がかかると、お客様はそのための予算を取る必要が出てきますので、依頼の歯切れが悪くなります。無料であれば、お客様から「この部分を作る技術がないのだが、何とかできない?」と積極的に相談され、これを解決できれば、将来の量産につながるわけです。