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探していた機械は見つかりましたか。

井口:学校の先生や工作機械の商社に在りかを尋ね、世界中を探して回りました。すると、工作機械の設計思想として、マシン全体の土台の耐性や汎用性から設計されている機械がドイツにありました。それも、当社の創業間もない頃に発売された最新鋭の機械です。世界一のマシンを買って、それを世界一のメンテナンスと改造ができる会社になろうと考えました。

 購入した工作機械は、クルマで言えば、故障せずに車検も簡単にパスするような大衆車ではなく、毎日メカニックが調整しながら走れるようにする、フェラーリのようなマシンです。メカニックは大変苦労するわけです。

 当初は試行錯誤です。試行錯誤しながら、加工に関するデータを収集し、データベースを構築してきました。それを基に、多様な製品を作ることができるようになりました。今風に言えばビッグデータを活用しているということです。

全て自動で24時間製造できる

加工データとは具体的にはどのようなものなのでしょうか。

井口:うどんやそばを打つ店は、その日の気温や湿度、手の温度まで考えて生地に含ませる水の量を変えると言いますよね。

 金属加工でいえば、例えばレーザー光を使って金属を切る場合も同じです。レーザー光は空気中を進みますが、その空気の湿度が高いとレーザー光は拡散してしまい、切れ味が変わります。精度を高めるには、こうした細かい経験値を積み重ね、管理する必要があるのです。

 切削加工でも同様です。金属を削ろうと金属に切削工具を当てると、金属は少し逃げます。逃げる分を考慮して少し深く切り込みます。この際、どの程度深く切り込むのか。切削が鈍るときの音はどのような音か。切削時に送り込む冷却エアの適切な流量と向き、といったデータです。

 昔は、熟練の職人が、これらを目で見て耳で聞いて対処していました。しかし人の技で一つひとつ作っていては昔のままです。私たちは、工作機械をアレンジすることで加工法を確立し、全て自動で24時間製造できるようにしたのです。

 工作機械に取り付ける工具は、メーカーから加工時の条件が出されています。ですが、それに従えば他社と同じような製品しか作れません。当社では、工具を壊してもいいからとんでもない条件で試してみることを社員に奨励しています。

 こう言うと実際に工具が壊れるんですが、壊れたら社員は自力で直します。試して壊して直して作ることで社員の技術力は上がり、データベースも充実していきます。できるだけ既存の条件を取り払って挑めば、そこにイノベーションも生まれます。

井口一世の独自データベース「知財システム」で工具の機能を確認している社員。詳細な加工ノウハウなども蓄積されている(写真提供:井口一世)