KARTEのほかに、メディア事業を展開していますね。

倉橋:CXに焦点を当てたWebメディア「XD(クロスディー)」と、それに基づくオフラインイベント「CX DIVE」です。ここでは、世の中のあらゆる体験を魅力的にするための企業の取り組みなどを発信しながら、CXの世界観を醸成しています。

 この2つの事業では、KARTEについて一切言及しませんし、当社が運営していることもほとんどアピールしていません。ですが将来、効率化よりも豊かさや体験が重視されるようになったときに、このようなメディアを運営していることが競争優位のポイントになると考えています。

 メディアの中では理想を語り、議論していきますが、当社の、楽しみながら人が何かを生み出すのを支援することで世の中が豊かになっていくという理想の追求は、現実への対処とセットだと思っています。企業も私たちも、現実がうまくいっていなければ理想は追求できません。

 ですから、今の企業の課題を確実にクリアしていくことと、理想的な未来を実現していくことは、両輪で進めていくことがとても重要だと思っています。

プレイドでは、Webメディアやリアルイベントにて先端的なCX論などを披露し、体験価値の重要性を社会に知らしめている(写真:カンファレンス「CX DIVE 2019 AKI」/プレイド提供)
プレイドでは、Webメディアやリアルイベントにて先端的なCX論などを披露し、体験価値の重要性を社会に知らしめている(写真:カンファレンス「CX DIVE 2019 AKI」/プレイド提供)

人との持続的なタッチポイント

長引く新型コロナウイルスの影響によって、社会が大きく変わる可能性も出てきました。今後についての考えはありますか。

倉橋:今回の場合は、オフラインで人が集まるのが難しくなったり、先行き不透明で工場の稼働が止まったりしていますが、今後も何が起きるのかによって、影響の出方も変わるでしょう。

 思うのは、今回の出来事で人々のこれまでの活動パターンが変わることによって、人のさまざまな活動が手段としてではなく、活動そのものを楽しむといった私たちが掲げている世界観に世の中が近付いていくかもしれません。

 明確に言えることは、今回のことを機に、デジタルチャネルの位置付けをしっかり考えてほしいということです。

 デジタルチャネルというのは、単なる販路などではなく、人とタッチポイントを築き続けられる場です。フィジカル(身体的・物理的)な場で何かが起こっても、人とつながってコミュニケーションができる、この体制は企業にとって重要な前提になっていくでしょう。

 デジタルテクノロジーが担えるポテンシャルはとても大きいので、その土台を固めて、多面的なタッチポイントを築くという流れができてくると思います。

KARTE以前のことも伺いたいのですが、飲食店ガイドアプリ「foodstoQ」を開発していたこともありましたね。

倉橋:食べる以外の目的があって食事をすることがありますよね。久しぶりに会う友達と食事をする、上司や親と食事をする、そういったときには、自分の知っている範囲の外で店を選ぶ必要が出てきます。

 そうしたときにこれまではどうしていたかというと、詳しそうな人に聞いていました。「あいつはあのエリアに詳しい」とか「ちょっといい店の情報はこの人よりあの人に聞いた方がいい」とか。こういった情報は普通に検索をしても出てきませんので、簡単に調べられたらいいなと思ったのです。

 解き明かすと今の事業と似ています。利用者が自分のコンテキストの中で必要とする情報と出合える体験を得る、という根本は変わっていないからです。

 このときは、事業計画についての思考もいまひとつでしたが、私たち自身がその事業に120%コミットするチームでなかったのも確かです。経験や力量以上にコミットメントが重要なのだと学びました。

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