KARTEには、Webサイト訪問者を対象にしたシステムとスマートフォンアプリからサービスを利用する人を対象にしたシステムがあるとのことですが、アプリ用の導入が増えているそうですね。

倉橋:そうです。メガバンクのような大手企業のほか、アプリだけで顧客との接点を持つ小さな企業も導入してくれています。アプリ用のマーケティングツールは世の中に幾つもありますが、顧客体験をつくるところに軸を置いているプロダクトが少ないからだと思います。

 メガバンクの場合、サービスが多様化していますが、オンラインでの利用者はどのサービスに興味を持っているかを把握するのが簡単ではなかったようです。そこでKARTEを使うことにより、アプリ利用者の状況を正しく把握し、オンラインでも適切に能動的にサービスを提供できるようになっています。

 例えば、銀行のアプリで住宅ローンに関するページを階層の深いところまで見ている、Q&Aも細かく読んでいるという利用者に対して、リアルタイムで関連情報を発信するだけでなく、そのユーザーから問い合わせがあった場合はゼロからではなく、それなりの深さから対応を開始することができます。

 こうしたアクションの積み重ねが、優れた顧客体験につながることはほとんどの企業活動に言えることです。

 企業は、顧客情報も提案したいものもたくさん持っています。ところが、そうした提案が利用者に届いているのか届いていないのか、いつ届ければいいのかが分かりませんでした。こうした悩みを解決して、適切に実行することが優れた顧客体験になるのです。

 今回の新型コロナウイルスの流行のようなことが起こると、あからさまなプロモーションははばかられるということもあると思います。マーケティングというよりも、顧客が今望んでいる体験をそこに届けるという、当たり前のことを実現するのがCXのプラットフォームなのです。

KARTEと連動したアプリでは、アプリ利用者に対し、その利用状況に合わせた呼び掛けなどがされる。利用者は自分なりに情報などを見ているだけではなく、予想外の利用の仕方に気づいたり、次の行動を取りやすくなったりする(画像:KARTEで発信されるメッセージ例/プレイド提供)
KARTEと連動したアプリでは、アプリ利用者に対し、その利用状況に合わせた呼び掛けなどがされる。利用者は自分なりに情報などを見ているだけではなく、予想外の利用の仕方に気づいたり、次の行動を取りやすくなったりする(画像:KARTEで発信されるメッセージ例/プレイド提供)
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得意な力を発揮でき、楽しいという体験が大切

KARTEをどのように発展させていきますか。

倉橋:今のところKARTEは、ユーザーとの効果的なコミュニケーションを自動的に図れるツールとして、その場の顧客体験はつくり出しているものの、新しい価値を生み出しているところまではいっていないと思っています。

 自動化の結果、消費者や企業が豊かにならないと意味がありません。単にコスト削減、業務効率化をするだけでなく、人が何かを生み出すことを支援して、消費者、環境、世の中が豊かになる、さらに私たちもこの仕事の体験を通して豊かになる、それが一番大事なことだと考えています。

 ネットで販路を拡大し、コストダウンも進めて収益性を改善できたなら、その利益を何に投資するのか。漠然とした話になってしまいますが、今後私たちが提供するサービスでは、その投資ができるような新たな価値を創造し、企業や消費者の未来、成長を生み出していきたいと考えているのです。

 仕事も生活も、それにモチベーションを感じて楽しめていないと、そこから生み出される価値が大きくなることはありません。テクノロジーやデータは、人が本来やりたかったことをやれるように支援するためのものであって、私たちはそれを可能にする環境をつくりたいと考えています。

 数字の計算や分析などは本来、人はあまり得意ではありません。そのためにデータやマーケティングオートメーションもなかなか柔軟に活用されないところがあるのだと思います。もっとテクノロジーを生かして、人は、得意とするところでパワーを発揮し、楽しく、いいタイミングでいい体験が生まれる、こういう価値をつくり出したいのです。

 ちなみに当社では、プロダクトの開発初期から、7割ぐらいはシステムで自動的に処理し、残りの3割は人が介在して価値が生まれるような、そんなバランスを意識してきました。

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