今後の事業展開について教えてください。

丸山:今後は、企業向けの事業にも力を入れていきたいと考えています。

 実際に、最近は富裕層のプライベートな体験だけでなく、企業向けに体験を提供するケースも出てきています。例えば企業のエグゼクティブ層が私たちの体験を経験すると、その後に会社の納会や総会、インセンティブツアーや研修にもこうした体験を組み込みたいという方が出てくるんです。

 例えば、大企業のグローバル役員のために“マインドフルネス(落ち着いた心の状態)”を獲得する研修を実施したり、海外からのお客様の接待ツールや、高級ブランドのイベントツールとして使っていただいたりしています。

 一方で、企業自身が、富裕層をターゲットにした商品を売り出したいのだが、どうすればいいのかという相談も持ち掛けられるようになりました。どの業界も、富裕層向けの商品のプライシングが的確かどうか、富裕層の心に本当に刺さるかどうか、よく分からないといいます。

 ちなみに富裕層向けの商品とうたっても、ただ高級なもの、高額なものというだけでは彼らには売れません。富裕層は既にあらゆる高級品に触れ、貴重な体験をしているので非常にシビアです。

新宿ゴールデン街に将軍が現れる

 富裕層向けの商品としては、比較対象のない感動できる商品をつくるのが得策。例えば、当社と松竹との取り組みから生まれた商品がそうです。どの企業でも変えられることと変えられないことがあり、松竹との取り組みでも、どこで高い価値を付けられるかが悩みどころでした。

 特別な価値として、東京の新宿ゴールデン街での“ディープツアー”を付け加えました。

 お客様は幾つかのバーをホッピングしていくのですが、そこに落ち武者や忍者、将軍にふんした役者を潜ませておくのです。役者たちは突然バーのトイレから出てきて、マスターと会話してお客様にお酌をするというような演技をします。もちろん、台本があります。

 お客様には、間近でインタラクティブに演劇を楽しみながら、お酒も楽しみ、ゴールデン街を楽しんでいただく。そんな新しい概念をつくりました。ここには江戸時代や昭和の文化がふんだんに盛り込まれています。

 ほかに、関西電力のゆっくり走る自動走行モビリティーサービスである「iino(イイノ)」というプロジェクトでも実績があります。大阪城公園の西の丸庭園を活用した“移動型茶室”の運営支援をしました。

 竹中工務店とは、東京の九段にある「旧山口萬吉(やまぐち・まんきち)邸」を使ったサロン「kudan house(クダン・ハウス)」で100年前に貴族が楽しんだであろう新年会を再現しました。京都の料亭の方、東京・向島の芸者さん、人間国宝の方、お茶の家元の方にご協力いただきました。

日本の伝統文化を富裕層に伝える役割は、その道の一流の人物に依頼するという。「旧山口萬吉邸」での茶会は家元に任せた(イメージ写真:淺川敏)
日本の伝統文化を富裕層に伝える役割は、その道の一流の人物に依頼するという。「旧山口萬吉邸」での茶会は家元に任せた(イメージ写真:淺川敏)

 松竹には役者や伝統芸能、竹中工務店には建物の設計施工ノウハウを生かした歴史的建造物の活用事業という「資産」があります。

 これらを有効活用できれば、企業にとっては新たな事業の伸展になりますし、それを高付加価値な体験プランにしつらえることができれば、富裕層の方々にとって魅力的な商品になります。

 こうした企業とのコラボレーションも2019年から増えています。企業の資産は観光や体験の資産になり得るものが多くあり、それらを活用すれば新しい価値を創造できるのです。

 大手化粧品会社とは“美容インバウンドツアー”も考えています。

 化粧品はどのメーカーも百貨店の1階で販売していますが、それだけでは差異化できません。1日がかりで、ネイル、まつげのエクステンション、エステ、そしてメーキャップするツアーです。これによって、その化粧品ブランドのファンを創造できます。商品も売れます。

 今後はこのような体験を通じて商品を売っていくことも手掛けていきます。

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