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社会人としてのキャリアを会社に依存できなくなった新しい仕事環境の中で、個人として自律的なキャリアをいかに築いていくべきか? 今までの組織文化を疑い、思考し、行動することで新しい自分を創り出していく。新時代の組織と自律的な個を巡って熱い議論が繰り広げられた。

[この記事は「ヒューマンキャピタル2019」(主催:日本経済新聞社 日経BP、2019年5月29~31日、東京国際フォーラム )での講演をまとめたものです]

【人事の未来スペシャルトークセッション】

<パネリスト>
ワンキャリア
最高戦略責任者
北野唯我氏

法政大学
キャリアデザイン学部 教授
田中研之輔氏

経済産業省
産業人材政策室 室長
能村幸輝氏

morich
代表取締役 兼 All Rounder Agent
森本千賀子氏

<モデレーター>
東京八丁堀法律事務所 弁護士 白石紘一氏
 

「ピン芸人型」から「チームビルディング型」に変化

白石:イノベーションと人材は、企業や経済の成長を考える上で、重要なテーマにずっとなってきました。例えば、2007年の内閣府年次経済財政報告「我が国のイノベーションをめぐる課題」でも、また、その10年後の2017年の通商白書「我が国のイノベーション創出に向けた課題」でも、課題の第一として「人材」が掲げられています。

能村:この2つは同じことを言っているようで、実は全く違う視点で見ているのです。この10年で、付加価値の源泉がモノからヒトに変わってきた。2007年当時、イノベーションの課題とはR&D(研究開発)、あるいはそれを支える人材でした。しかし2017年には、ITやAI時代になって、ヒトそのものが生み出す付加価値が非常に重要になってきたのです。

田中:私の考えるイノベーター人材の資質を一言で言うと、「目の前に見えている当たり前の景色を疑えるか」です。例えば、目の前にあるモノに対し「この形でいいのか、この使い方でいいのか」と常に疑ってみる姿勢です。ここ10年のイノベーションの変化については、かつての工場生産、大型投資でモノを作るというシーンが世界的にも少なくなって、その代わり、ナレッジ=高度知識型イノベーションが求められるようなトレンドを感じます。

法政大学 キャリアデザイン学部 教授の田中研之輔氏 写真:稲垣純也(以下同)

森本:私は、ピン芸人型からチームビルディング型への変化だと見ています。今の時代に必要な人材は、スティーブ・ジョブズのような天才型よりも、チーム力を最大化しながら新しいものを創っていくタイプです。言い方を変えれば、今のイノベーター人材は「変化に対応できる人」。垂直型でずっとキャリアを積み上げてきた人ではなく、非連続をたくさん経験してきた人。しかも、20代、30代といった若い時期に。

北野:面白い話が2つあって、1つは、今の新卒の新入社員に聞くと、6~7割の学生が転職を前提に就職活動をしています。もう1つ、転職経験のある人は1度も転職していない人と比べて、圧倒的に新しい環境に適応する力がある、ということ。

田中:組織にキャリアを預けるのではなく、自分自身で柔軟にキャリア形成していくことを「プロティアン・キャリア」と呼びますが、そこで大事なのがアイデンティティーとアダプタビリティーです。アイデンティティーは、自分とは何か、何を大切にするか、といった自分の軸のようなもの。これがあれば、どんな環境下でも自己を確立できます。

 一方、アダプタビリティーとは適応力のことです。イノベーター人材には、アイデンティティーを崩すことなく、環境に適応し、なおかつ「これっておかしくない?」という違和感を持つことが必要。その違和感が爆発力につながります。

 イノベーションで成功している人を見ると、みんな若い時期にストレスを感じた経験を持っています。これには理由があって、アイデンティティーは自分自身で育てることができても、適応力は自分では伸ばせないから。だから、転職とか海外赴任などの大きな環境変化に身を投じることで、負荷をかけることが重要になってくるのです。

能村:今、専門性を評価する上で、職務(ジョブ)や勤務地などを限定して採用する「ジョブ型採用」を導入すべきだ、との声が上がっています。しかし、イノベーター人材を育成する観点ではそのジョブだけでいいのかとも考えられます。むしろ、いろいろな部署を経験して適応力をつける、つまり、ジョブローテーションをうまく組み込むほうが有効なのではないでしょうか。

北野:ジョブローテーションは、かつての日本企業でも結構ありました。だとしたら、適応力をつけるために肝心なことは、実はいろんな職種を経験することそれ自体ではなく、自分がマイノリティー側に入ること。ジョブローテーションしてきても、常にマジョリティー側にいるのでは、適応力はつかないのではないでしょうか。

田中:もう1つ、イノベーター人材に必要な条件があります。それは破壊性です。経済学者のヨーゼフ・シュンペーターがイノベーションには創造的破壊が重要だと説いたように。実際に、孫正義さんやアリババのジャック・マーさんはかなり破壊的です。

森本:創造的破壊で思い出しました。私は新卒でリクルート社に就職しましたが、3年目の時に理不尽なことが…。入社早々から、荒れた荒野を耕し種をまきようやく果実を手にできるというところで、異動の内示が…。この理不尽な異動がきっかけになり、初めて辞めようと思いました。

 そこで、私のメンターだった江副浩正さんに相談にいくと、宿題を出されました。「『創』という漢字にどういう意味があるのか調べてこい」と。図書館に行って調べると、ある辞書に「壊すこと」と書いてありました。たぶん、今までの自分や成功体験を壊して、新しい自分を創ってみろ、と江副さんは言いたかったのだと思います。いわゆる「創造的破壊」が大事だというメッセージを伝えたかったのだと…。

morich 代表取締役 兼 All Rounder Agentの森本千賀子氏