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企業によって異なる情報開示のあり方

水野:企業によって戦略も経営環境も多様ですから、情報開示のあり方や仕方は違ってくると思います。実践的にどう開示をすればいいのかについてご意見をいただけますか。

守島:重要な視点は、「自社の戦略達成のために必要な人材とは何か」ということです。例えばファストフードチェーンの場合は、非正規社員をどう確保してハッピーにするか、エンゲージメントを高めていくかが、これからの人材戦略の基本となるでしょう。この場合、公開すべき情報は、「どのような施策で非正規社員のエンゲージメントを高めて、ワークスタイルを改善していくか」になります。

 一方、製薬会社であれば、自社にどれだけの優秀な研究開発の人材がいて、どのようにモチベーションを高めて評価しているかが人材戦略の軸であり、公開すべき情報となるはずです。

 つまり、企業の戦略によって必要な人材も情報開示のあり方も違ってくるわけです。いずれにしても、その企業にとってキーとなる人材をどのように確保し、エンゲージメントを高めて活用していくかを考えることがポイントです。

 日本の経営者は、人材に関する細かい問題は人事部に任せてしまう傾向があるように思いますが、人事部は資本市場との接点があまりないので、今日お話ししているようなことはなかなか考慮できません。経営者が考えるべきは、「自社の戦略を達成するためには、こういう人材が必要で、そのためにこういう人材戦略を実行する」ということに尽きます。自らの頭にある人材戦略について、株主総会やIRミーティングなどを通じて積極的に伝えるのが大切だと思います。

井口:日本企業の情報開示の好例だと考えている中外製薬の取り組みをご紹介しましょう。任意の報告書になりますが、従業員の意識調査について毎年掲載しています。自社の経営戦略を従業員が理解しているかという調査内容です。数値自体に大きな変化は見られませんが、重要なのは、この開示により「経営戦略が従業員にどれだけ浸透しているかを経営者がしっかり確認し、適切な人事戦略につなげている」ことが理解できるということです。

 ここには、以前、社外取締役の方のコメントもありましたが、取締役会も、しっかり監督しているということを意味していると思っています。取締役会という永続的な組織が監督することで人材戦略と企業経営の持続性が感じられました。

 企業の状況に応じて、しっかりと従業員の状況を把握し、その上で適切な経営戦略を執行するということ。多くの企業で実践されているかもしれませんが、開示するか開示しないかで企業に対する投資家の信頼性が変わってくることは間違いないと思います。