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情報開示は欧米企業が先行 日本企業の動きが鈍い理由

水野:会場の皆さんもだんだんイメージが湧いてきたのではないでしょうか。今のお話を受けて、本題となる「情報開示のあり方」について考えたいと思います。これまで日本企業は「人が大事」「人材育成が大切」と言ってきました。人材への投資を一生懸命やっているのであれば、それを外部に見せないのはもったいない。しかし現状では、日本企業の情報開示は少し鈍い気がします。

守島:海外企業の情報開示の好例の一つに、英豪系の資源大手リオティントがあります。同社は安全衛生についての情報公開に力を入れています。石炭などの鉱山権益を持つリオティントにとって、安全衛生に適切に取り組んでいることが将来の成長と利益につながるからです。

 おそらく、日本の多くの経営者はこうしたマインドセットを持っていないでしょう。「自社の将来の成長や戦略の達成につながる、人事的な側面で大切なものとは何か」――そこに具体的に投資するのはもちろん重要ですが、仮に投資をしたなら、その事実を積極的に外部に発信し、説明していくべきです。そうすることで株主などステークホルダーの評価を得られ、投資を呼び込むことにつながります。

 日本の経営者は、人事に関して「人が大切です」という以上には細かい関心を持っておらず、それを外に伝えるということに関してモチベーションがあまりないのかもしれません。

井口:先ほど申し上げたように、人材投資に関する情報開示は、投資家が経営戦略の達成の確信度を把握する際に重要になる部分と考えています。例えば、最近、ROIC(投下資本利益率)経営に取り組む会社が増えています。事業活動に投じた資本に対してどれだけ効率的に利益を出したかを表すROICの向上を目指す経営です。

 投資家が、ROIC経営が成功するか否かを判断するにおいては人事評価などの人材戦略にまで落とし込まれているか、そして、それが開示されているかが一つの重要なポイントとなります。しかし、人材という非常にセンシティブな部分なので開示しづらい部分があるのかもしれませんが、まだ、こういったところまで開示している企業は少ないです。

 情報開示が進まなかった背景には、こうした人材面における取り組みを投資家側が注目しなかったということもあると思います。しかし、スチュワードシップ・コードの導入を受けて投資家が人材情報を重視するようになる中、これからは企業の経営者もその重要性を理解し、開示が増えていくと期待しています。

ニッセイアセットマネジメント株式運用部 チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー 上席運用部長(投資調査)の井口譲二氏

水野:リオティントの他に、参考になる海外企業の情報開示の例があれば教えていただけますか。

井口:うまく開示しているのは欧州の企業が多いと思います。欧州の投資家は長期的な投資をする傾向があるというのが背景にあると思います。

 一つ挙げるとすれば、英国の大手小売りのマークス&スペンサーの取り組みがあります。同社はアニュアルリポートで素晴らしい開示をしています。「顧客の全ての時間を特別なものに」をスローガンにしており、お客様の意見にしっかり耳を傾けるということが人材戦略の大きな柱となっています。これを実践するためのプログラムを作り、また従業員が社会的な問題に興味を持つようCSR的な人材教育に注力し、こうした活動を取締役会がモニタリングしています。日本企業にとって参考になる事例ではないでしょうか。