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「労働時間を増やすようなことをなぜやるんだ」

テーマ3 関係性が希薄になる中、チームワークや育成にどう取り組むか

寺山:最後のテーマは、社内のコミュニケーションの問題です。昔に比べて、社員の上下やヨコの関係性が希薄になり、チームワークや育成がおろそかになっていないでしょうか。部下への教育においても言いにくいことが増え、でもそれをしっかりやらないと組織としてもアウトプットのクオリティーが上がらないし、個人も成長しない。なかなか難しいテーマです。パナソニックさんはそれが上手な会社だとお見受けしていますが、いかがですか。

大橋:昔ながらの製造業の会社ですので、上意下達の文化が根強くあって、それをいかに壊すか、その中でどう人材育成していくかを苦心しながら取り組んでいるところです。会社組織ですので、上司のポジションパワーは残るものの、それだけでやっている上司は評価されない。そういう価値観の変革を打ち出しています。

 と同時に、月並みですが部下を主体とした新しいコミュニケーションの文化を醸成していこうと1on1を導入して健全なコミュニケーション機会を増やしています。最初は「労働時間を増やすようなことをなぜやるんだ」といった声もありましたが、その後のアンケートでは8割以上が高評価でした。健全なコミュニケーション機会を増やすことが、個人のやる気の向上や、労働生産性の向上にもつながることが徐々に現場に浸透しているのを実感します。

寺山:従来の朝礼などと1on1では、効果は違うものですか。

大橋:1on1は部下主体のコミュニケーションですので、情報の伝達や共有のためのコミュニケーションとはかなり異なります。上司からすると日ごろからコミュニケーションをしていると感じていても、実は部下の望むようなコミュニケーションがとれていなかったということに気づかされました。

 また、できるところはフリーアドレスも導入し、部門を越えたコミュニケーションを活発化することで仕事のスピードは確実に上がっていますし、会議の必要性も減ってきました。個人が生き生きと働ける風土に変わってきているなと実感しています。

寺山:メルカリは非常に若い会社なので、コミュニケーションのあり方、指導・育成のあり方も従来型の会社とは大きく異なるというイメージがあります。

唐澤:そうですね。私たちはそもそも上から下に指導するという概念があまりないんです。ミッションを目指してみんなで頑張ろうという会社なので。あらゆる情報をオープンにしているとお話しましたが、具体的にはSlackというコミュニケーションツールを使って、全てのやり取りをオープンチャネルで誰でも見られるようにしています。どのプロジェクトに誰が意見してもいい。もちろん私自身も若い社員たちから平気で意見されます。上から下に向かって命令するような関係性だと摩擦も起こるでしょうが、お互いに言える関係ができていれば、負の感情もなくなる気がします。

寺山:イトーキも、コミュニケーション活性化を重視した施策に取り組まれていますね。

八木:そうですね。業務コミュニケーションの改善のために、会議室のあり方などにも取り組んできました。ただ、ワーク・エンゲージメントや心の健康状態を良くするためには、業務のコミュニケーションよりもインフォーマルコミュニケーションができているかの方が重要だという調査結果が出ています。従業員同士の信頼のベースになるような関係性って、昔でいえば運動会とか、福利厚生っぽい活動で実現されてきたと思うんですね。そういうものが減ることで、コミュニケーションの前提となるような信頼関係がつくりにくくなっていることが、やらされ感の原因の一つではないかと思います。

寺山:ANAさんの場合、チームコミュニケーションが悪いと、サービスや安全性に直接響きます。チームワークの育成も相当進んでいると思いますがいかがですか。

山本:確かにチームワークには非常に重点を置いております。まず「ANA's Way」というグループ行動指針があります。「安全」「お客様視点」「社会への責任」「チームスピリット」「努力と挑戦」の5つで、グループ社員一人ひとりが行動指針に基づいて、自分がどう行動するかを議論する機会を設けています。

 また特徴的な取り組みとしては「アサーション」文化の醸成が挙げられます。安全快適にお客さまを定刻にお届けすることが私たちの使命。もし機内で、上司が安全に関わるような間違いをしたら、ちゅうちょすることなく部下がそれを指摘し、また指摘された上司はそれに感謝する。この関係性を「アサーション」と定義づけて、一人ひとりの日常の行動に浸透させるよう努めています。