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正社員と派遣社員・契約社員との差が開いてはいけない

テーマ2 働き方改革につきまとう「やらされ感」をどう払拭すべきか

寺山:今のお話にもつながりますが、働き方改革のもう一つの問題点として、従業員が政府や経営層から押しつけられた改革と捉えられているところがあります。「やらされ感」があるのではないかと。Fringe81の田中さんは、どうお考えですか。

田中:平成の30年間で何が変わったかというと、正社員比率がものすごく下がったこと。当社も4割ぐらいが時短・派遣・契約社員の方々とアルバイトさんです。

 ですから、もし人事部の方が正社員向けに一生懸命施策をやると、社内で一緒に働いている人たちとの差がどんどん開いてしまう可能性がある。派遣社員や契約社員の方にしてみれば、自分事にはならないので、「寒いですね」ということになる。働く仲間が多様化する中で、メンバー全体をちゃんとつなぎ留めて、生産性を高め、モチベートしていくことが必要だろうなと思っています。

 今後の人事部の仕事は、個別の人事施策ではなくて、「この会社に入って良かった!」と感じられる枠組みを、アルバイトや契約社員の方々も含めて設計することに変わっていくんだろうなと想像しています。

寺山:そのためには、全社員の承認欲求を満たしていくのが大切ではないでしょうか。私のような立場も含めて、誰もがお金のためだけに働くわけではない。仲間から認められたりお客さんから褒められたりすることが大きな励みになる。Fringe81ではそうした取り組みをされていますね。

田中:先ほどのピアボーナスはその一例ですね。実は僕自身も新卒1年目の社員からボーナスをもらうんですね。30円とか(笑)。でも、30円に込められた感謝の言葉がめちゃくちゃうれしい。きっかけや方法は何でもよくて、感謝し合う枠組みさえあれば、雇用形態とか年次を超えて人を緩やかにつなぐことができるのではないかと思っています。

寺山:ANAさんの場合、客室乗務員や地上係員の方、みなさんが気持ちよく働いているかどうかが、そのまま顧客サービスにつながっています。従業員のやらされ感をなくし、顧客満足にもつなげていくためにどう取り組んでいますか?

山本:従業員がすべてとびきりの笑顔で接してくれていればいいなと思いますが、もちろんいろいろな個性があります。私たちは一人ひとりの心の状態を含めて向き合うために、常に対話を心がけています。

 やらされ感の解消という意味では、人事制度を常に社員目線で見直していく姿勢が大切だと思います。以前、社内で調査したところ、20代後半から30代前半の退職率が高かった。ちょうど女性が結婚・出産を考える頃ですね。それを支える仕組みとして懐妊・育児休職制度はあったのですが、復職後はフルタイム勤務が前提となっていたため、使い勝手が良くありませんでした。そこで3年前、フレックスの勤務形態を導入。その結果、退職率は半減しました。基本的なことですが、働き方の選択肢を増やすことによって、会社側と社員側の意識のギャップは埋めていけるかなと思います。

寺山:PwCさんはやらされ感のない改革に取り組まれているイメージがあります。

北崎:やらされ感が生まれるとすれば、その施策が組織と個人の成長にどうつながるかというシナリオが見えていないからだと思うんですね。シナリオがちゃんと明確に発信されていれば、マネジメントサイドも従業員サイドもすっと心に入ってくる。

 もう一つ重視しているのは、改革の主役は現場という考え方です。制度が変わっても個人の心に響かなければ何も変わらないので、意識改革を非常に大切にしています。

 当社は、人事部門だけが人事制度改革を主導するというタイプの会社ではないんですね。部門ごとにチャレンジ意識の強い人間が「チェンジエージェント」に選出され、彼らが新しい制度を自分の部門にどう反映させるべきかを考え、30~40人の単位で意識改革を実現していく。この集合体の取り組みが、会社全体のカルチャーを醸成しています。