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上意下達的なあり方を変えるのが重要

寺山:パナソニックさんは非常に長い歴史を持つ企業です。松下幸之助さんの経営哲学をはじめ、豊かな財産がある。それを守りながら新しい時代の働き方を目指していくのは、独特の難しさもあるのではないでしょうか。

大橋:おっしゃる通りです。貴重な財産があると同時に、過去の成功体験が足かせになる場合があることも感じています。

 労働時間のお話もおっしゃる通りで、企業活動全体からみたら重要なのは、単なる「数値目標の達成」ではなく「生産性の向上」であるべきです。生産性の分母に当たる「労働時間」を減らすだけではなく、分子に当たる「アウトプット」の価値をどれだけ高めていくか。かつては分子についての意識がやや薄い面がありましたが、現在はアウトプットに対するコミットメントを高めるような取り組みをしています。地道な取り組みですが、それを愚直に積み重ねることで結果として従業員満足度を上げていきたいと考えています。

寺山:じつは私は雑誌『日経ビジネス』でパナソニックさんを長く担当していました。私の印象でも、働いておられる方のキャリアも、企業としての雰囲気も大きく変わったように感じます。大橋さんも、変革の成果を実感されているのではないでしょうか。

大橋:もちろん部門などによって違いはありますが、従業員満足度調査などの結果数値は確実に上がっています。経営トップのコミットメントもありますが、現場レベルでの上司と部下の関係性をいかに旧来の上意下達的なあり方から変えていくかが重要で、真摯に取り組んでいるところです。徐々にではありますが成果を実感しています。

寺山:オリックスは、従業員の声をしっかりと吸い上げた人事改革・働き方改革に早くから取り組み、大きな成果を上げていると思います。私から見ると、働き方改革で一般に言われる数字目標はすでにクリアしているように見える。数値目標の達成と、生産性向上のような本質的な問題との関係について、どう捉えていますか。

三上:残業時間や労働時間の削減自体が目的ではないということは、ことあるごとに繰り返し伝えなければいけないな、というのが実感です。改革の本来の意義は全ての社員が働きがいを持って生産性高く働くことにあるのですが、社員が「なぜ職場改革をやるのか」と半信半疑になって、その意義を見失うと、時間短縮など分かりやすい目標達成に向かいがちなのだろうという気がしています。

 従業員満足度などの指標でも同様です。満足度を上げようと思えば、福利厚生や報酬など即効性のある施策を打つことで一時的には数値は上がる。ただし持続性はありません。「生産性の向上」という本質を目指すなら、数値目標達成ではなく、社員一人ひとりが自発的、意欲的に仕事に取り組むような環境を整えていくことが大事。従業員満足度を調査してみると、当社の結果はベンチマークよりも高いのですが、満足度の数値を向上させること自体は目的ではないとはっきり伝えています。

寺山:従業員満足度の向上が目的ではないとおっしゃいながら、結果としての数値が高いわけですよね。ある意味、理想形かと思います。良い循環が生まれた理由はどこにあるのでしょう。

三上:冒頭でも話したように、ボトムアップで改革を推進したからだと思います。自分たちの危機感をもとに現場から提言させ、それを経営トップがすべて受け止めた上で、やれることを全部やりなさいというメッセージを発した。社員側がコミットメントを持ってスタートしていますので、自分ごととして改革に取り組んだ結果、少しずつ成果が生まれ、満足度向上につながったのではないでしょうか。