井上:今のソフトバンクをどう見ますか。「危機にある」と多くの人が言います。30年以上、取材してきた僕にしてみれば、孫さんはいつだって崖っぷちだったわけなんだけど。

鎌利:外から見える風景の良さって、ありますよね。僕は福井県の出身ですが、福井県の行政の方に「福井の良さは何でしょうか」と尋ねられて考えました。僕が福井にいたのは高校生までで、人生の長さで考えれば、福井ではない場所で過ごした時間の方が長い。だから、正直、歴史的なことも含めて、福井の深い本質なんて分かりません。

 ただ、外にいるからこそ見えることもあって、僕は「(福井は)景色がいいんじゃないですかね」と、答えたんです。そのとき、僕の頭には、スイスで車窓から見た景色があって、窓から土の色が一切、見えないのです。一面の緑。これはきっと、スイスでしか見られない車窓からの風景で、それも夏のこの季節しか見られないんだろうな、と。

外から見える「ソフトバンクの風景」

何気ないようで、特別な風景。

鎌利:福井にも多分、単線の線路を小さな電車にことこと揺られながら見る風景、一言で田園と言ってしまえば田園なのだけど、里と山との距離感だとか、何かしらほかにはないものがあるといった風景が存在して、それが「(福井の)いいところ」なんじゃないかと、すごく感じたのです。そういう「外から見た良さ」というアプローチがあると、何にしろ、魅力がより引き立つ気がします。

 ソフトバンクにしても、僕は7年間、中にいましたが、外からあらためて見る良さは、ずっと中にいる人から見えるものと違うと思うんです。僕が自分のキャリアの変遷をたどりながら思い起こすソフトバンクの風景には、そういう良さが満ちているし、それをどこかで中にいる人にもお伝えできるといいなと、感謝とともに思うんです。きっと大丈夫ですよ、孫さんは。

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表紙揮毫(きごう)は、今回のインタビューに登場の書家・前田鎌利さん(ソフトバンクアカデミア第1期生)です。

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