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井上:鎌利さんが、孫さんの前で初めてプレゼンしたのは、いつですか。

鎌利:社員として、経営会議でプレゼンしたこともありますが、当時でも何万という社員がいる会社でしたからね。誰が誰だとか、分かっていなかったと思います。「これが前田なんだな」という認識で聞いてもらったことというと、「ソフトバンクアカデミア」でのプレゼンでしょう。

孫正義氏が、自らの後継者を育てるために立ち上げたのが「ソフトバンクアカデミア」。鎌利さんは、2010年に選考された1期生で、初年度第1位を獲得しています。アカデミアでは、さまざまなテーマでプレゼンを競うのですよね。

井上:初めて孫さんの前でしたプレゼンの内容、覚えていますか。

鎌利:それはもう、鮮明に。ただ、その内容を外部で詳しく話すのは禁止なんです。

 ざっくりいうと、ソフトバンクにおける困難な状況をいかに打開していくのか、といったお題です。要するに「自分が経営者ならどうするのか」「自分が孫正義だったらどうするのか」という問いに対して、「僕ならこうする!」と答える、といった構図です。

井上:そこで鎌利さんは、高い評価を勝ち取っていった。どんなことを気を付けていましたか。

鎌利:とにかく5分しかない。だから、5分の中でより多くの方に理解してもらえるものにする、賛同いただけるものにする。

 孫さんに「OK」を出していただくだけでは駄目なんです。アカデミアの採点は複数の人たちでします。孫さんが株主総会で何かを伝えようとするときも、誰か1人の理解を得ることだけを考えていたら、全員にはなかなか伝わらないですから。

 だから、専門的な話でも、できるだけシンプルに分かりやすく。孫さんも、子どもでも分かるような例えを、よく使われますよね。そこはすごく意識していて、「僕はこれがやりたい」ということを、できるだけシンプルに、シンプルに。

井上:それがやがて評判になり、ソフトバンク社内の研修プログラムになり、本にもなった、というわけだ。前田さんがすごいと、僕が思うのは、プレゼンのメソッドを確立しているところなんだよね。例えば「社内プレゼンのパターンは1つ」と、本に書いてあるでしょ。

1)課題:どんな課題があるのか
2)原因:その課題が生まれる原因は何か
3)解決策:その原因を解消する具体的な提案
4)効果:提案内容を実施した場合の効果予測

 このフレームワークは、すごく良くて、プレゼンなんてまったくしない僕にも、何かにつけて参考になる。思考全般の枠組みとして優れている。僕は、この4ステップを紙に書き出して、仕事場の机の前に貼っているんです。

鎌利:本当ですか(笑)。

最強のプレゼンテクニックは笑顔

井上:もう1つ、前田さんの本で、すごいと思ったフレーズがあって、それが「一番のテクニックは、『笑顔』」。

 こういう境地に達するまでにはやっぱり、いろいろな葛藤というか、トライ・アンド・エラーがあったわけでしょ。

鎌利:いや、それはもうおっしゃる通りで。

 もちろん、いろいろトライするわけですが、人前で話す場にはいろいろあって、アカデミアでのプレゼンもあれば、一般の方向けの講演もあって、聞いていただく方は、その時々でまちまちです。だから、コレをやれば絶対にハマるというものはなくて、オーディエンスの方に合わせて、一回一回、アレンジしないと伝わらないことが多い。

 けれど、普遍的なことももちろんあって、その一番が笑顔。どなたとお話ししても、どんなシチュエーションでお話ししても、笑顔が出せれば、快い形で迎えていただける。これは恐らく、孫さんからそれとなくにじみ出ていたものを頂いたのだと、今になって気づくのです。