例えば、どんなことがありましたか。

鎌利:それが、あんまり具体的なことを口にするのは、今でも差し障りがあるんです(笑)。

 例えば、電波法とか通信法のこと。ああいった事業法の細かいことなんて、経営者の方は知らないのが普通ですが、ちょっと話すと「これは、こういうことだろ」と返されて、それが本質を突いている。本来なら、150年くらいある電話の歴史の中で、電気通信事業法がなぜできたのか、どういうプロセスを経てできたのか、どんな経緯でこんな条文になっているのか、といったことを理解しないと、言えないような内容なんです。そこを押さえた上で、「こうしないと、世の中は良くならないよね」とくる。

つまり、今主張したいことのために、過去の流れのすべてから必要な要素を短時間に抽出する。

鎌利:そうですね。かなり速いスピードで。

 つまり、まずユーザーがいる。ユーザーが大事。だから、ユーザーのために何をするか。無線と基地局について勉強しなければならない。だが、そこに膨大な時間を悠長に割いている暇はない。そこでどうショートカットするかというと、先ほどの「一流に聞く」だったりするのかもしれません。

井上:孫さんはやっぱり、若いときに猛勉強しているから。米国西海岸で過ごした高校、大学時代から、勉強の鬼、勉強の虫だったから。

ネット検索で答えを探さない

鎌利:何かしら答えを求めたい、意思決定をしなくてはいけない、というときに、「誰に意見を求める」かは、すごく重要です。その「誰に」で、孫さんは妥協しない。絶対に「一流の人に」聞くんだ、というすごみですよね。

 一流の人とコンタクトがとれるのはもちろんすごいですが、そこに「こだわる」というのが、本当にすごいと思うんです。

 今はインターネットで検索したら、何でも、答えらしきものは見つけられます。でも、「どこからでもいい」「誰からでもいい」ではなくて、1次情報にこだわる。それも「どこの1次情報に当たるか」にこだわるというのは、なかなかできることではない。自戒を込めて、もっと曖昧に、ファジーに、もっとさらっと決めることもできる。でも、そうしない。

 そこにこだわれるのは「自分でやる以上は」と、腹をくくっているからだと思うんです。

 孫さんが一流の人に聞いて、一流の人が教えてくれたままにやっているかというと、それも違って、結局、その一流の人の答えすら参考にすぎず、最後に決めるのは自分自身でしかない。だからこそ、どの情報を取りにいくのかにこだわる、というのは、孫さんらしい。孫さんならではの愚直さです。

井上:そう、愚直。英語のときの定番のせりふが「I still don't understand」。

井上さんは、30年以上にわたって孫社長を取材してきた(写真:菊池一郎)
井上さんは、30年以上にわたって孫社長を取材してきた(写真:菊池一郎)

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