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伊藤さんのお話は、勇気が出ますよね。孫さんのように、10代で人生を懸けるテーマに出合えなくても、40代で出合って、50代の今、すごく頑張っている人がいる。

羊一:だから今はとにかく、健康に気をつけなくてはならんと(笑)。

井上:昨年(2019年)末に「忘年会には、行きません」と宣言していたよね。あれは共感した。僕も今は、誰かと飲んで発散するよりは、自分の中にもっとエネルギーをためたい。

羊一:もちろん人と話すことは大事。でも、忘年会で一緒にワーッと騒ぐのは、あってもいいけれど、優先順位でいったら、メチャメチャ低いですよね。そう考えたときに、誘われたらどうしようかと思って、宣言したんです。年末、すごく大事な人に誘われたりもしましたが、「今、こういう状況にあって、やりたいことがたくさんある。だから、そちらを優先させてください」と説明すれば、全員、分かってくれる。それで友情がなくなるわけではない。

井上:その程度で壊れる友情なら、それでいいよね。

羊一:でも、そこにきっぱり線を引けるようになったのは、ようやくこの1年くらいのことで。

井上:「サステイナブル(持続可能)」であるために、一線を引く。この「サステイナブル」という孫さんの言葉は、この本のためにインタビューして新しく発見した表現。孫さんは昔から、「めげない、懲りない、へこたれない」といったことをよく言っている。「愚直に」とか。それらは、言葉を換えれば「サステイナブル」ということなんだね。「しつこくやり続けろ」とは、「サステイナブルであれ」ということなんだ。サステインするものをつくらなければならない。そのためには愚直に掘り下げなければならない。

U2が同じ曲を歌い続けるように

羊一:掘り下げるから、結果として息長くなり、サステイナブルになるんですね。

 いや、ちょっと元気が出てきたな。

 正直なところ、掘り下げることをひたすらやり続けると、自信を失いそうになるんです。

 僕は今、年間300回くらい講演をしていて、それだけでも狂っている話だと思うんですが、そのうちの100回くらいは「人に伝える」というテーマで、中身はほぼ同じなんです。だから、こんなに同じことばかりやり続けて、どんな意味があるのだろう、と、一時期、迷ったんです。

 でも、「いや、意味がある」と思い直して。U2のコンサートに行って気づいたんです。このバンドは、同じ「Sunday Bloody Sunday」という曲を、30年以上も歌い続けているじゃないか。これだ! そう思って。深く掘り続ける人がいて、それを聞きたい人が集まり、「そうだよね」という共感が広がり、サステイナブルになっていく。その領域に近づこうとしているんだ、と。

井上:僭越(せんえつ)ながら、そういう人たちへのエールとして、この本を書いたつもりでいる。

羊一:ええ、感じます。今日はたまたま、取材があって、7年ぶりくらいにリアルでお目にかかりましたが、こんなことがなくても、本は予約して買っていました。そうやって、僕は井上さんと、文章を通じて対話を続けている。僕が出した本を読んでくださっているとも聞いていますし。

井上:全部、すぐ買う。

羊一:材料さえあれば、会わなくても対話できるし、逆に材料もなく会っても、対話にならない。僕は井上さんと初めて会ったとき、井上さんの著作を読んでいたけれど、僕には当時、何もなかった。だから、本を出せるようになってうれしい。

井上:羊一さんが、最初に『1分で話せ』を出して、ガーンとベストセラーになったときには、僕はうれしかった。「ついに来たな」と。いつか絶対、来ると思っていたからね。

羊一:これからも深いお付き合いを、お願いします。次にリアルでお目にかかるのは、何年後になるか分かりませんが。

(構成:小野田鶴=日経トップリーダー

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孫氏が米国メディアで答えたインタビューなどから、
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表紙揮毫(きごう)は、書家・前田鎌利(ソフトバンクアカデミア第1期生)。