羊一:もちろん、孫さんはすごく頭を働かせている人で、七重八重の構えとか、7割の成功率で動くとか、戦略を重視する。

 一方で、原点というのは、考えるところじゃなくて「Feel」というのかな。ブルース・リーじゃないけれど、「Don't think! Feel.」というところがあって、先にあるのは、やっぱり「Feel」のほうじゃないかと思うんです。佐賀の鳥栖で抱いたネガティブな感情も、コンピュータチップの美しさに触れた感動も。これらを起点にして続けてきた結果が、「痛快な人生」なんですよね。

 僕は、幸運なことに、ソフトバンクアカデミアでそういう人生の「入り口」の「感覚」みたいなものを知った。けれど、多くの人は、その入り口の感覚すら得られずに、もやもやしている。だから僕は、よく「まず感じろよ」みたいなことを……。

井上:いつも言っているよね(笑)。

羊一:そうです(苦笑)。

井上:感じたら、ぱっと動け、と。『0秒で動け』と。

羊一:そう。この感じが分かったら、結果として、痛快な人生になる。だから「感じ取る」ことが最初にあって、「感じ取る」には、こうするんだよ、ということを、僕は孫さんに習って、翻訳している感じがする。

人生はスーパーマリオだ!

井上:羊一さんは、感受性が豊かだからね。そこが孫さんと似ている。今日も、取材の冒頭から泣いたでしょ。

 変な話だけど、僕は羊一さんと初めて会ったとき、孫さんと似ているな、と、思ったんだ。

 孫さんの取材はしていても、僕はITにはあまり詳しくなくて、スマホの使い方とかは弱い(笑)。けれど、周りにいる人たちはみんな優しいから、そんな僕のことを助けてくれて、ずっと取材を続けてこられた。

 羊一さんに初めて会ったとき、国際線の機内で、iPhoneを片手におろおろして、海外モードにどう変えるの、と羊一さんに聞いたでしょ。

羊一:ああ、そんなこと、ありましたね。

井上:羊一さんみたいな人にしてみれば、「何、バカなことを聞いてくるのか」と思ったかもしれないけど、ごく自然に、的確に教えてくれた。

 そのときに、「ああ、孫さんもそうだったな」と、思い出したんだ。

 iPhoneを日本で発売した当初、孫さんが「井上さん、こうやると拡大できるんですよ」と、浮世絵のアプリを映し出し、2本の指で丁寧にスワイプして見せてくれた。

「ああ、あのときと同じだなあ」と思ったら、無性にうれしくなって、すぐに意気投合した。

 羊一さんは、外から見ると、ガーッと攻めていくような強面(こわもて)なところがあるけど、内面はすごく優しい。そんなところが、孫さんとちょっと似ている。

羊一:いやいや、孫さんと私では、スーパーマリオの1面と25面くらい、差がありますよ。もっとかな。

 本にありましたよね。「人生はスーパーマリオだ」って。あれはうれしい発見で、1面と25面くらいの差はあっても、同じ志でやっている、ということ。1面であれ、25面であれ、ボスキャラを倒して、次のステージに行こうとしているんだよね。だから、学べるよね、と。

 この言葉は、超が付くほど実践的。こんな僕でも、誰かにアドバイスしようとすると、言われるんです。「そう言ったって、羊一さんは成功していて、僕とは違うでしょ」と。「いや、違わないよ!」と言っても、なかなか納得してもらえない。でも、そうか、こう説明すればいいのか、と。何面にいようが、ボスキャラを倒す。1500万円の資金繰りで悩むか、150億円で悩むかで、経営者としてのステージは違っても、同じように戦っている。僕と孫さんだって、同じように頑張っているんだぞ、と。

お酒を飲まない理由、飲み会に行かなくなった理由を説明する、伊藤羊一氏のFacebook投稿
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