井上:それでヤフーのコーポレートエバンジェリストに就任し、Yahoo!アカデミアの学長になったわけだ。僕は、宮坂さんとは2、3回しか、会ったことはないけれど、すごく温和な人だよね。
羊一:そうですね。
井上:僕が思うに、温和なリーダーは、羊一さんみたいな右腕が欲しいものだよね。強面(こわもて)というのかな。温和な自分と正反対なものを持つ人が、特に改革をやるぞというときには必要になる。
羊一:そうかもしれません。僕としては、これが事業の面で支えるという話だったら、「今いるプラスでやるよ」となったと思います。けれど、宮坂さんの頼みは「リーダー育成」だったから。それならやりたい、と。そこから僕は、新しい道に入ったんです。
「自分の道」は「教育」だと見えてきた?
羊一:いや、見えていたか、見えていないかも分からなかった感じです。ただ、結果として、今やっているいろいろな仕事がすべて教育につながっているのは事実で、その過程で、だんだんと「自分の道」を、言語化できるようになっていきました。そうなって、ようやくまた「孫正義」という存在に触れられるようになったタイミングで、井上さんのこの本が出て、読んだわけです。
「飯を食う関係じゃない」というプライド
井上:僕は、羊一さんのいう「自分のway」「あなたのway」っていう部分に、すごく共感するんだよね。孫さんを長年、取材してきた者として、僕にも一つの矜持(きょうじ)があって、それは、飯を一緒に食ったことは一度もない、ということなんだよね。不遜な意味ではなく。
ただ、飯は一緒に食わなくても、取材はウエルカムで、それは互いにそうなんだと思っている。1987年の初めての取材なんて、2日で5時間も話したしね。でも、個人的に親しいなんてことは全然ない。
あくまで孫さんは事業家で、こちらは作家。孫さんのことに関しては、記録者だよね。そこには「a decent distance」というのかな、「節度ある距離」があるべきで、飯より、もっと深い部分で理解しているつもりだし、いつも真剣勝負。羊一さんも一緒なんだと思う。プライドだよね。
羊一:ただ僕は間違いなく、無意識のうちに、孫さんを吸収していたんです。井上さんの新刊を読んで、「自分のオリジナルだと思っていたあのフレーズは、オリジナルじゃなかったのか! 孫さんだったのか!」と、驚いている。
「もっと狂え!」とかね。本の帯にもあるけれど、これは僕には本当にヤバくて、表紙を見ただけで泣きそうになる。この「狂え!」という言葉は、事業家や起業家に向けられた言葉として、本では紹介されていますが、それぞれの道で頑張っている人たちへの呼びかけとしても、受け取れますよね。
本では、ほかにも孫さんのいろいろな側面が切り取られて、それぞれに面白いのですが、読んだ人ごとに、今の自分に一番、刺さる言葉が見つかると思います。今の僕なら、やっぱり「もっと狂え」。ほらここ(本のページをめくる/下写真参照)。グルッと入れたマーキングに、僕の「そうだそうだっ!」という気持ちが入っている(笑)。
井上:孫さんは、言うことが変わらないからね。
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