「1秒で買う」時代に消費者の心をつかむ
マーケティングの「AISAS」を実践に落とし込むには?
笹木 郁乃
株式会社LITA 代表取締役/PRプロデューサー
「SNS時代に必須のPRスキル」を、クイズ形式で解説するシリーズ連載。2回目は「情報疲れがもたらした消費行動の変化」。身の回りに流れる情報は「ガラケーの10年」で530倍になり、スマホ時代に入った21世紀もさらに膨張を続けている。消費者は商品を「1秒で買う」ようになった。そんな変化を、『0円PR』の著者が、マーケティングの「AIDMA」と「AISAS」のフレームワークから分析する。
今回もクイズから。
SNSの普及で、商品の売り上げアップに、あまり効果がなくなったことは何でしょうか。次の3つから、当てはまると思うものをすべて選んでください。
【A】商品そのものの質が高いこと
【B】商品の情報を大量に流すこと
【C】商品に対する経営者の情熱
PRと広告の違いとは
商品やサービスを買うとき、皆さんは、何を基準に選んでいますか。
「広告」と答える人は、ほとんどいないと思いますが、だからといって、「広告に効果がない」とは結論できません。
広告には、「消費者の無意識に働きかける」という特徴があります。消費者としては影響を受けているつもりはあまりないのに、影響を与えてしまうのが、広告ならではのマジックです。
そんな広告の特徴をうまく説明するのが、かつてよく使われていたマーケティング用語の「AIDMA(アイドマ)」と「セブンヒッツ理論」です。
テレビCMを大量に流して消費者の脳裏に商品名を刻む。それが王道だった時代があった(写真:ナオ/PIXTA)
ご存じの方も多いと思いますが、確認のため。「AIDMA」とは……
【A】Attention(注目)
【I】Interest(興味)
【D】Desire(欲求)
【M】Memory(記憶)
【A】Action(購入)
の頭文字をつなげた言葉です。
まず、私がペンを売っているとしましょう。ここで「笹木郁乃さんっていう人がいるんだ」とか「笹木さんはペンを売っているんだ」と知らせ、「注目」してもらうのが「Attention」。
その次に、「笹木さんの売るペン、どういう機能があるんだろう」と「興味」を持ってもらうのが「Interest」。
さらに「このペン、ちょっと欲しいな」と、「欲求」を持ってもらうのが「Desire」。
そうこうするうちに、ペンのことが頭に残ります。こうして「記憶」してもらうのが「Memory」です。
そして、実際に「購入」という行動に至るのが「Action」。
かつては、このAIDMAに基づいて「セブンヒッツ理論」というものが提唱されていました。人は、同じ商品の情報に7回接すると、購入の確率が格段に上がる、ということです。
このAIDMAとセブンヒッツ理論に基づいて、テレビや雑誌、交通広告など、いろんなところで何回も広告を打ちましょう、というのが、一昔前まで、マーケティング業界の典型的なロジックでした。
つまり、「自社商品の情報との接点をとにかく増やせば、記憶に残り、購入に至る」ということです。
ところが、このAIDMAがどうも、現状に合わなくなってきました。
昔は、消費者が商品やサービスの存在を「記憶」することが、購買につながるとされた。だが、情報が過剰になっている現在、消費者が記憶するのも困難になっている
「ガラケーの10年」で情報量は530倍に
皆さんは、私たちが1日に接する情報の量がどのくらい増えたと思いますか。
総務省の統計(「平成18年度情報流通センサス報告書」)によると、1996年から2006年の10年間で、テレビやパソコン、携帯電話などを通じて、私たちが接する情報量は530倍になったといいます。古い話ではありますが、いわゆるガラケーとインターネットが普及した2000年前後だけで、これだけ大きな変化が起きていたのです。
「ガラケーの10年」で530倍。
その後については、単純比較できる統計が乏しいのですが、スマホや動画配信の普及で、身の回りを流れる情報量が、どんどん増えていることは間違いありません。
それだけの情報を、すべてまともに受け止めていては神経が参ってしまいます。だから自然と、私たちは情報が視界に入ってもスルーするようになってしまっています。
その結果、「発信されたのはいいけれど、見向きもされない情報」が、どんどん増えています。
さらに、その結果としてどうなったかというと……。
記憶に残らないものは、残らない!
「いろんなところで広告をたくさん打とう」というロジックは、次の前提の上に成り立っていました。
「自社商品の情報との接点をとにかく増やせば、記憶に残り、購入に至る」
ところが、今の時代はどうでしょう。
「特定商品の情報に何回接しようが、記憶に残らないものは残らない」
こう理解するのが正しいでしょう。
つまり、今の消費者の行動はAIDMAのモデルでは理解できない。代わりに使われるようになったのが、「AISAS(アイサス)」です。
こちらもご存じの方が多いかもしれませんが、「AISAS」は、次の5つの英単語の頭文字です。「Attention」と「Interest」までは、AIDMAと同じですが、その次が、「Search(検索)」で……
【A】Attention(注目)
【I】Interest(興味)
【S】Search(検索)
【A】Action(購入)
【S】Share(シェア)
と、なります。
今の消費者は、商品やサービスの「興味(Interest)」を持ったら、まずネットで「検索(Search)」してみる。そして、例えば、Amazonのレビューを見て、「星4.5」といった高い評価が付いていたら迷わず「購入(Action)」します。
つまり、「記憶(Memory)」になくても、瞬時に判断して買う。
今は、商品やサービスに興味を持った見込み客のほとんどが検索を行う。検索して出てくる評判の良しあしが、購買に至るかどうかの分かれ目であり、ファン獲得の鍵も握っている
今の消費者は、第三者の意見やクチコミを非常に重視します。私もそうですが、選ぶ商品やサービスの情報が多過ぎて、自分の頭だけでは処理しきれません。だから、ネットに蓄積された「第三者の評価」というデータベースに基づいて、この商品で間違いないと思ったら、すぐに「購入(Action)」する。それこそ「1秒で買う」。
そして、その商品を買ってみて、使ってみてどうだったかということを、SNSに書き込んで周囲と共有します。これが「シェア(Share)」です。
クチコミを見て「1秒で買う」
「この商品は良かったよ」ということはもちろん、「この商品は駄目だった」「この店のサービスはひどかった」ということまで、シェアされて、クチコミされて、拡散されてしまうのが今の時代です。そしてその情報に触れた人がまた1秒で、買うか買わないかを判断する。
これはあながち悪い話でもなく、だからこそ、今の時代はこれまでよりごまかしが利きにくくなっている。その傾向にあることは、確かだと思うのです。
ここで冒頭のクイズに戻れば、異論もありましょうが……。
【B】商品の情報を大量に流すこと
には、「あまり効果がなくなった」と言えます。
一方で……
【A】商品そのものの質が高いこと
は、昔以上に極めて重要、ということになります。
では……
【C】商品に対する経営者の情熱
は、どうでしょうか?
こちらも異論がありましょうが、私の考えでは「商品に対する経営者の情熱」は、SNS時代にあって、ますます重要になっています。
「SNS時代=PRの時代」と、しつこく主張してきました。情報があふれている今の時代は、「うちの商品、いいですよ!」と、自薦するのでは効果が上がりにくい。第三者に「この商品、いいね!」と、他薦してもらわないと、消費者の心を捉えられない。そして、第三者の推薦を得る活動とは、PR活動、ということです。
そして、PR活動を成功させるには、PR担当者の資質と心構えが重要です。私の考えるに、2つの条件があります。
【1】自社の商品、サービスを心から愛していること
【2】自己開示が上手であること
SNS時代に問われる「商品への愛」
PRとは、人の心を動かすこと。「この商品、いいね!」と、嘘のない本心から言ってもらわなくてはなりません。
そのためにPR担当者は、SNS投稿の素材になりそうなコンテンツをつくって発信したり、ニュースリリースを書いたり、キーパーソンにアポをとってプレゼンしたりするわけですが、そこで必要なのは、文章が上手に書けるとか、流ちょうに話せるといったことではありません。
まずは、自社の商品、サービスを深く理解し、愛し、魅力を熟知しているということ。PRする人自身が、商品に自信を持てなくては、その素晴らしさを伝えていくことができるはずがありません。
そして、自分自身の心の中にある商品への愛情を伝える力。つまり自己開示のスキルが必要です。
さらに遡って考えれば、PR担当者が商品やサービスを愛するには、経営者に情熱が必要です。経営トップがぶれないビジョンを持ち、情熱を社員に伝える。その情熱がPR担当者を通じて消費者に伝わったとき、息の長いクチコミが生まれ、ファンができるのだと思います。
なので、冒頭のクイズの……
【C】商品に対する経営者の情熱
は、SNS時代、ますます重要になる、と、私は考えます。
発売、即重版!『0円PR』好評販売中です
amazonランキング1位獲得!
(「SNS入門書」部門、2019年12月12日)
発売1週間を待たずに重版決定しました。
なぜエアウィーヴは浅田真央さんに選ばれたのか――?
第1号正社員として、
5年で売上高115倍に貢献した著者が、
ロジカルでシンプルな、
セオリーとノウハウを説き明かす『0円PR』。
満員御礼「PR塾」のエッセンスを、
ぎゅっと詰め込みました。
お金をかけて、
広告を出しても効きにくい今どきですが、
0円の「いいね!」を集める効果は絶大。
「いいね!」を集める活動=PR活動です。
PRのスキルがあれば、
お金をかけずに、
顧客に愛され、
売り上げを伸ばしていける。
熱いメッセージを込めて、実践的に展開します。
この記事はシリーズ「ベンチャー最前線」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?