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井上:孫さんは、周囲にいる人をガーッと引きつけちゃうからね。ときどきバーンアウトしちゃう人がいる。

羊一:ああ、何となく分かります。

ご自身も一時期、そういう感覚を覚えた?

羊一:僕の場合は、そういうことがあるかもな、と思ったくらいですが。

 ソフトバンクアカデミアでは、プレゼン大会が頻繁に開催されるんです。テーマが提示されると、アカデミア生がこぞってエントリーして、予選を勝ち上がると、孫さんの前でプレゼンできる。

 僕は最初から、1回たりとも予選に落ちないで、毎回、孫さんの前でプレゼンしていた。そうやって1年以上がたったあるとき、もう7回目か8回目になる孫さんの前のプレゼンで、「これだ!」っていう、会心のプレゼンをしたんです。

 そうしたら、孫さんが厳しい顔をしている。

 なんでだろう、と、思ったら、孫さんが「伊藤君、君のプレゼンはいつも楽しみにしている。今日も楽しかった」という。そして、それからいきなり、強い口調で「なんでおまえは、俺と一緒にやらないんだっ!」と。

 ええええ? と、僕はびっくりして。

「なんで俺と一緒にやらないっ!」

 それから、「おまえはプラスのオーナーの息子かっ!?」と聞かれて、「いやいや、違いますよ」と。すると、「だったら、なんで俺とやらないっ!」と詰めよられて、正直、僕は「何をこの人は言っているんだ」と。それで「俺は、そういうつもりでここに入ったんじゃないんです。あなたの下で働くつもりで、ここに入ったんじゃないんです! ……でも、ありがとうございます」みたいな感じで返した。孫さんはもう、忘れていると思いますけれど。

井上:いや、そうやって熱くなった孫さんを、そんな具合にいなした人はほかにいないと思うよ。

羊一:後で、周りの人からそう言われました。それであらためて「孫さんが誘ってくれたんだ」と思って、また驚いて(笑)。

 でも「待てよ」と、考えたんです。

 孫さんの下で働くのかというと、自分には「働かない」という意思が、明確にあった。志には共鳴するけれど、一緒に働く気持ちはない。しかし、ここでこうやってプレゼンを続けることは、毎回、孫さんから5分という貴重な時間を奪うことになる。それはいけない。孫さんの下で働く気持ちがない以上、自分がここに居続けてはいけないだろう。

 そう思って、それから一切、プレゼンにエントリーしなくなったんです。

 アカデミア生ならば、プレゼンにはエントリーするのが当然で、ずっとエントリーしないと、どこかで自動的に辞めさせられるはずなんです。ところが、いつまでたっても辞めさせられない。責任者の方に尋ねたら「OBとしてアカデミアを盛り上げるために残ってほしい」ということになって、それ以来、僕はアカデミアの「OB」です。