全6048文字

羊一:その後2010年、さらに大きな転機があって、「ソフトバンクグループの孫正義社長の後継者を育てる」というソフトバンクアカデミアの募集をたまたま目にして応募した。

 選考がすべてプレゼンで、最終選考を「孫社長が見る」というので興味を持ったのです。そうしたら、1回目、2回目の審査を通過して、なんと孫さんの目の前で5分のプレゼンをすることになった。

 至近距離ですよ。2、3メートルかな。そんな近くに、あのすごい経営者がいる。

「うわ、いるわあああ! 」みたいな感じ。
 でも「うわ、いる」だけでは終われない。
「あなたはすごい人かもしれない。でも、俺だって考えていることがあるんだっ!!」

 そんな思いでぶつかっていったら、孫さんも応えてくれました。合格して、アカデミアに入ってからも、何度も孫さんの前でプレゼンする機会をいただき、「面白いね」と言ってもらえた。

 そうやって孫さんの前で初めてプレゼンしたのが、2011年の2月で、翌3月が東日本大震災。

 あのとき、僕はプラスで中間流通部門にいて、そこで扱うのは文具だけじゃないんです。電池や軍手、長靴、台車など、震災からの復興に必要不可欠な物資を多く扱っていて、その物流を何としても早急に復旧させなくてはいけないという事態に直面していました。そこでいつの間にか、復旧のリーダー役になって、周囲に指示を出していたんです。自分の判断で。そして結果としては、極めて早いスピードで復旧を実現して東北からの注文に応え続けた。

 それは大きな転機で、それまでの僕は「自分の価値観で決める」ということを仕事でしていなかったんです。A案とB案があったら、それぞれのメリットとデメリットを示し、「Aのほうがいいと個人的には思いますが」などと言いながら、最後の判断は上司に委ねる。自分で意思決定をしていなかった。でも、震災のときの自分は違って、自分の価値判断で「Aだ!」と決めていて、それはまったく新しい感覚でした。

 そして5月にグロービスの卒業式があって、そこで代表謝辞を述べた。2011年は2月、3月、5月と大きな出来事が3つも重なって、濃厚な時期でした。

これ以上「孫正義」を吸収したらいけないなと

 あのころの僕は、ほとんど初めて、リーダーシップというものに触れたんだと思うんです。

 それまでの僕は、社会人としてリーダーシップを発揮することはあまりなくて、リーダーシップという分野がほとんど白紙だった。

 それが、震災からの復旧でリーダー役となり、孫さんという強烈なリーダーに触れた。あの時期、孫さんはアカデミアによく顔を出していたし、僕も、井上さんの『志高く』(実業之日本社)はもちろん、ほかにもたくさん孫さんの本を読んだ。それで、何か「うおおおおおお!」と……。

井上:吸収しちゃったんだね。孫さんを。

羊一:吸収しすぎたんで、あるとき「もういいか」となってしまった(苦笑)。というか、「これ以上、吸収したら(孫さんを追い求めて)自分が自分でなくなる」というような複雑な思いがあって。