叱ってもいけない、ほめてもいけないということになれば、一体どうすればいいのかを考えてみましょう。

 アドラーが「自分に価値があると思える時にだけ、勇気を持てる」といっていることは先に見ました。この勇気は、仕事に取り組む勇気です。

<span class="fontBold">岸見一郎(きしみ・いちろう)</span><br />哲学者。1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の西洋古代哲学と並行して、アドラー心理学を研究。『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(ともにダイヤモンド社)など著書多数
岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の西洋古代哲学と並行して、アドラー心理学を研究。『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(ともにダイヤモンド社)など著書多数

 一生懸命仕事に取り組もうとしない部下がいます。そのような部下を励ますつもりで「君には力があるのだから頑張れ」といえば、いよいよ頑張らなくなります。

 頑張ればいい結果を出せるという「可能性」の中に生きることを選ぶからです。そのような人は自分には価値(能力)がないことを仕事に取り組まない理由にします。

 多くの場合、仕事の実質的な中身は対人関係ですが、人と関わると必ず何らかの摩擦が生じます。

 自信がある人は人と関わることを恐れませんが、そうでない人は傷つくことを恐れ、対人関係を避けようとします。この場合、そうするために自分には価値がないと思おうとします。

部下に「ありがとう」と言おう

 上司の仕事はそのような部下に、自分に価値があると思え、仕事に取り組む勇気を持てるように援助をすることです。

 具体的には、部下に折に触れて「ありがとう」といいましょう。そのようにいわれ貢献感を持てた部下は自分に価値があると思え、仕事に取り組む勇気を持つことができるからです。

 このように課題に立ち向かっていく勇気を持てる援助をすることをアドラーは「勇気づけ」といっています。

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