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 部下と対等に接するために、叱る代わりに何ができるかを考えてみましょう。

 私が叱るのをやめようという話をすると、必ずほめてもいいのかとたずねられます。

 ほめることには二つの問題があります。

岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の西洋古代哲学と並行して、アドラー心理学を研究。『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(ともにダイヤモンド社)など著書多数

 一つは、対等な関係ではほめることはできないということです。

 親のカウンセリングに同行してきた小さな子どもがカウンセリングの間、静かに過ごせたら、親は「偉かったね」とほめますが、夫のカウンセリングに同行してきた妻に「偉かったね」とほめないでしょう。大人は子どもを対等とは見ていないからほめるのです。

自分に価値があると思えなくなる

 もう一つは、ほめられると自分に価値があるとは思えなくなるということです。

 親は子どもがおとなしく待てないと思っていたので、思いがけず待てた時、子どもをほめるのです。他方、カウンセリングに同行してきた妻をほめないのは、当然待てることを知っているからほめないのです。もしも夫が妻をほめたら、ほめられた妻は馬鹿にされたと思うでしょう。

 それでは、仕事で評価することはどうなのかとたずねられることがあります。仕事においては、評価しなければなりません。しかし、それはあくまで評価であって、ほめることではありません。