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 「働き詰めなのに、どうして商売がうまくいかないんだ。何のために俺は仕事しているんだろう」

 2016年、深夜11時過ぎ。東京都八王子市にあるパナソニック系列の電器店「パナピット イトウ」(現ライフテクト イトウ、以下イトウ)社長の伊藤直樹は、車の中で一人、涙をこらえていた。

 朝9時から夜9時まで住宅街の中にある店を開け、来客対応をしながら、顧客の自宅に出向く訪問営業もする。閉店後は、少しでも客数を増やそうと、深夜まで店周辺を車で走り回り、自ら販促チラシをポストに投函していた。

 当時のイトウは伊藤と妻、伊藤の両親、パート2人の6人という小所帯。1972年に伊藤の父が創業し、2004年に伊藤が後を継いだ。父も含め懸命の努力を続けていたが、経営は厳しかった。

「ライフテクト イトウ」は、八王子市内の閑静な住宅街の中にある小さな町の電器店。伊藤社長(写真右)は、顧客を絞って会社を蘇らせた。左は経理面から支えた妻のかおるさん(写真=菊池一郎、以下同)

 バブル期のピーク時に約1億円あった売上高は6000万円にまで落ち込み、純利益はわずか。バブル期の移転オープンや、その後の店舗改装などに伴う金融機関からの借入金2800万円の返済が進まなかった。

 主因は、バブル崩壊後に店から1キロ弱の場所に大手家電量販店が出てきたこと。それ以前にも近くに中堅の量販店が4店進出してきており、ダメ押しのような形で価格競争に巻き込まれた。

 苦境の中、何とか対抗しようと伊藤は夫婦の報酬を削ってまで商品を値引きした。それでも体力のある量販店の安さにはかなわない。目立った効果は見られず、伊藤は次第に仕事がつらくなった。