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働く女性の普段着を貸し出す、月額制ファッションレンタルサービスのエアークローゼット。顧客に熱狂的に受け入れられるサービスに育てるにはどんな検証方法が必要か、サービス実現に必要な要素をどう探すか。エアークローゼットの天沼聰社長と、書籍『起業の科学 スタートアップサイエンス』の著者である田所雅之氏が話し合った対談の中編。(前編はこちらを参照)

サービス提供側で「良いアイデア」だと思っていても、本当にそれはユーザーの心を捉えるものになっているとは限りません。天沼さんは、現在のビジネスモデルを見つけてからは一本道を進んできたということですが、それはチームの中でしっかり議論をして、初期からユーザーを捉えられていたからではないでしょうか。アイデアの絞り込み段階では、どんな議論があったのですか。

天沼:議論の段階では、いろいろなアイデアが出てくると、それを全部実現したいと考えてしまうものです。
 エアークローゼットには、今も掲げる会社の行動指針「9 Hearts」があります。これを用意したのは、サービスをつくり込むより前でした。私たちの会社は法人としてどんな人格で世の中と渡り合っていくのかを起業した最初に決めたので、その人格で手がけるビジネスとして、社会に最も笑顔がつくれそうなのはどれかを選んだのです。ですから、最後の決断は論理的というより、自分たちにとって何がふさわしいかという感情を重視した形ですね。

天沼聰(あまぬま・さとし)
2002年に英ロンドン大学卒業後、アビームコンサルティング、楽天を経て、14年にノイエジーク(現エアークローゼット)を創業。15年2月に月額制ファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」を立ち上げた(写真=菊池一郎、以下同)
エアークローゼットが起業当初から掲げる行動指針「9 Hearts」(出所:エアークローゼット)

なるほど、どんなサービスが自社にふさわしいかを深く議論されていたことが今につながっているわけですか。では、そのサービスの形がない段階で、アイデアをユーザーにどう説明し、どのように受け入れられるかを検証したのですか。

天沼:今もずっと仮説検証を続けていると思っています。ユーザーの持つ痛み、ニーズについて何か確証を持って言えることがあるかというと、ヒアリングでどんな声が集まるかは、実際に行ってみないと分かりませんから。

 私たちの場合はまず、顧客になりそうな潜在ユーザーなど200~300人にインタビューをしました。

 ここで一番大事なのは、ヒアリングする目的です。間違えやすいところですが、事業化するかしないかを判断するためにヒアリングをするなら、そもそもそのサービスは事業化しないほうがいいと私は思います。

 このサービスで絶対に最後までやり切ると決めているビジネスでなければ、手がける必要はない。決意が揺らいでいるようなサービスは、それを最後までやり通すことはできないですから。

 そう考えると、ヒアリングの目的は、これで行くと決めたビジネスで失敗の可能性を限りなく減らすことにあるわけです。

田所雅之(たどころ・まさゆき)
スタートアップ支援のユニコーンファーム社長。日米でスタートアップを起業した経験を持つ。ウェブマーケティング会社ベーシックのCSO(最高戦略責任者)も務める。主な著書に『起業の科学 スタートアップサイエンス』(日経BP)

田所:ヒアリングではどんな声が集まったのですか。

天沼:ファッション業界の人にレンタルサービスについて聞きに行ったときは、ほとんどの人に反対されました。「レンタルサービスではブランド価値が付かない」「今までの常識から外れている」「お客様はレンタルなんて見向きもしない」といった厳しい声ばかりでした。

 でも、その時点では既にファッションレンタルというビジネスで行くと決めていたので、厳しい意見の方に振り向いてもらうためには、どういう発信の仕方をすべきかを一つ一つ議論して決めていきました。やると決めたビジネスはやるべきなんです。