全6228文字

田所:私の著書『起業の科学』は私が何も知らず、起業に失敗した反省を踏まえながら、失敗の9割は無くせるフレームワークを整理したものですが、エアークローゼットは致命的な失敗とまるで縁がなかったように見える。途中でビジネスモデルを変えたり、狙うユーザーを変えたりということもなく、進んできている。

 天沼さんを中心に、3人のメンバーが起業の初期から非常にうまくコミュニケーションを取ってきた成果ではないかと思います。

 起業家が大きな価値を生み出す重要な要素は、経営陣のコミュニケーションの質の高さにあるのではないでしょうか。

天沼:実は、最初から3人で起業することに私はかなりこだわっていたんです。性格上、本音で徹底的に話し合うのが好きなので、熱くなれる仲間と熱い内容を語りたい。2人で議論になるとそれを落ち着かせるメンバーがいない。いざというときには火消しに入るメンバーがいるバランスは3人か5人で起業することだと思っていたんです。エアークローゼットには、「9 Hearts」という9項目の行動指針があるんですけど、その中心には「情報、知識、感じたこと、受けた感動、どんなことも共有(シェア)をすることでチームの総合力を高める」という項目があります。まさにコミュニケーションを大事にしているのです。

田所:あらゆる事業は、顧客に価値を届けるためのものだと思うのですが、熱く議論しているうちにサービスの内容がつくり手側の視点に偏ってしまうことがよくあります。サービスにどんな機能を盛り込むかなどを決めていくときは、顧客目線に立つことをどれだけ重視していたのでしょうか。

天沼:圧倒的に顧客視点で考えますね。むしろ、それ以外の視点はない。我々の存在価値はUX(ユーザー体験)の最大化にしかありません。お客様の感動体験をつくることから視点がずれたら、私たちがいる意味はないでしょう。

ビジネスモデルは手段の1つ

田所:今、映しているスライドがエアークローゼット創業前の発想の原点で、この発想を今、まさに具現化している感じですね。

エアークローゼット天沼社長が創業当時に書いたメモ。モノや情報は増え続けるが、忙しい個人はそれを処理する時間が足りないと気づき、新しい出合いを生み出すビジネスが生まれた(出所:エアークローゼット)

天沼:このグラフは、最初に創業メンバーの3人が集まってカフェで話したときに、私が書いたものです。

 時間は有限で変わりませんが、モノや情報は今や幾何級数的に増えているという図です。その横に「キュレーション」「セレンディピティー」と書いてあります。第三者が何かを提案してくれ、そこで新しい商品や情報との偶然の素晴らしい出合いが生まれる。これが、エアークローゼットのビジネスの本質です。

 新しいサービスを生み出す中で一番重要なのは、ビジネスモデルではないと思っています。ビジネスモデルはあくまでも手段の1つでしかありません。一番重要なのは、自分たちの本質的な目的とか価値とは何かということだと思っています。

 私たちは、たまたま最初に選んだ手段でビジネスができていますが、本質的な目的を1つ持った上でそれを実現するさまざまな手段をピボット(軌道修正、切り替え)していくというのが基本的なビジネスの生み出し方だと思います。

田所:このアイデアを考えた頃は、衣食住の「衣料」でサービスを展開することは決めていたのですか。

天沼:この時点では決めていなかったですね。何かと何かのマッチングをシェアとインターネットとデータと人工知能を使って、今後解決していくという、ふわっとした概念があっただけでした。

田所:2013~14年で、人とモノやサービスとのいい出合いが相対的に減ってきているという兆候は感じていたのですか。

天沼:最初にイメージしたのは、先ほども触れましたが、女性の働く環境の変化です。ファッション誌を読んだり、テレビを見たりする時間が減ると、新しいブランドやその着こなしを知る時間がない。今年の流行やトレンドの色は何かを知るきっかけもなさそうと感じました。

 そもそも、ショッピングに出かける時間がなく、出かけられたとしても、小さな子供を抱いたままでは試着もできない。

 子供優先の生活になるほど、ファッションとの出合いの価値は大きくなる。そういう時代に変わってくるだろうと考えて、衣料というフィールドを選んだのです。