大型店の店長も、小型店の店長も、納得ずくで働いてもらうにはどんな人事制度を導入すればいいのでしょうか。

松本:魚力では当時、社員の評価や昇給は社長の一存で決めていましたが、ひと月に500万円を売り上げる大型店の店長と、30万円程度の小型店の店長とでは、数万円程度しか月給が変わらない。

 これは、小型店の店長も頑張っていることを社長がちゃんと分かっていたからです。分かってはいるけれど、どうしても売り上げの大きい大型店の店長を褒めてしまう。では、どうすればいいか。

 本人の努力によって変えられる数字を評価項目として立てればいいのです。その頑張りに応じて給料も上げる。これが私の提唱する「成長シート」です(下表参照)。

社員が伸びる松本式「成長シート」(小売業の一事例)
社員が伸びる松本式「成長シート」(小売業の一事例)
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 大型店と小型店では、立地も規模も違うため、来客数や売り上げの数字は違って当然です。ならば、お客1人当たりの単価や購入点数を比較すればいい。事実、それらの数字では、小型店が大型店を超えることもありました。

 同様に、本人の力で伸ばすことができる鮮度や料理の知識なども評価の対象としました。一人ひとりの努力や工夫を測ることができる指標で評価したのです。こうして魚力の社長は、大型店の店長も小型店の店長も本人が頑張った分だけ、正しく褒められるようになりました。

「教えること」は得


ベテラン社員と若手社員を同じ基準で評価するのは難しくないですか。ベテラン社員は新しい技術や知識を習得する余地が若手ほどなく、評価が頭打ちになる。

松本:そこで、後進に技術や商品知識を教えることも評価の対象にしました。私が入社したとき、職人に「包丁の使い方を教えてください」と頼むと、「背中を見て盗め」で終わり。当時の新入社員は、入社して数年間は包丁を持てず、雑用ばかりさせられていました。

 それはなぜか。ベテランが若手に仕事を教えてしまうと、給料が安くてバリバリ働ける若手に、自分の仕事が奪われるかもしれないと考えるからです。

 そこで私は、教えることを「損」ではなく、「得」になる仕組みに変えました。若手に自分が蓄積してきた技術を教え、早く一人前に育てることで評価が上がり、昇給にもつながるようにしたのです。

 若手は喜び、ベテランは上から褒めてもらえる。なおかつ給料も上がるわけですから、ベテラン社員は惜しみなく自分の経験や知識を提供するようになりました。成長シートは、社員の成長が見えるとともに、褒めるきっかけをつくっているともいえます。

具体的な昇給額はどのように決めればいいですか。

松本:どの企業も、新人社員と中堅社員と幹部社員では昇給金額が違うものです。また、同じ階層の中でも昇給金額が違う。なぜ変えているのか。経営者に聞くと、皆さんこう答えます。「やはり、違いがあるから」。

 その「違い」こそが、昇給の違いです。その違いをきちんと説明できれば、どの社員も納得します。ただし、今まで決めてきた金額は、新しい賃金制度を作っても一切変わらないようにしなければなりません。経営者が「勘」で決めてきた昇給額は間違っていません。問題は、「説明できないこと」。だから、「成長シート」のような経営者の考え方が埋め込まれた仕組みをつくるのです。そうれすれば、経営者は昇給のことで悩まなくなります。

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