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経営環境の変化が激しい中、中小企業の後継者教育にも変化が見え始めた。これからの時代のリーダーに必要なのは、環境や価値観の変化に対応する力やゼロから新しいアイデアを生み出す豊かな発想力など、知識を与えるだけでは身に付かない資質だ。車好きを生かして自ら起業し、運送会社シードコーポレーションを営む新出紘之(ひろゆき)社長は、「将来は娘にも経営者として好きな仕事に携わってほしい」と考え、高校生だった娘に起業をさせる独自の「社長教育」を始めた。

 「社長は美咲だよ」──。金沢市の運送会社、シードコーポレーションの新出社長は2017年、当時高校2年生だった一人娘、美咲さんにこう告げた。「え?」。まさか自分が社長になるとは思わず驚いたと美咲さんは振り返る。

運送会社のトラックの前で娘の美咲さんと写真に収まる新出社長。指を立てる「GO(行くぞ)!」のポーズは美咲さんのお決まり。「行きたいところ、やりたいことに向かおう!」の意が込められている(写真=山岸政仁、以下同)

 17年の夏休み、父娘でフィリピンに短期語学留学した。現地の人々の温かさに触れ、同世代の若者にも留学を経験してほしいと考えた美咲さんは「海外体験を共有する情報サイトがあるといいね」と何気なく新出社長に話した。これが、娘の起業を新出社長が具体的に後押しするきっかけとなった。

 新出社長は、美咲さんを司法書士事務所に連れて行き、自分の言葉で起業の目的を語らせると会社設立の書類作成を依頼。美咲さんは自分の年齢を社名にした「株式会社16才」を17年末に起業した。

 子息子女を優れた経営者に育てる「新しい」教育方法の一つは、起業を体験させることだ。自発的に考える経験を積ませることが、経営に役立つと新出社長は考える。

 今は大企業に勤めたとしても、安泰とは言えない。だからこそ娘にも経営者として、好きな仕事をする道を切り開いてほしい。これが新出社長の思いだ。

環境が経営者をつくる

 もともと美咲さんが高校に入る頃には「起業をさせて、経営者にしたい」と考えていた新出社長。高校入学と同時に、美咲さんに独自の「社長教育」を始めた。

 「勉強しろ」とは言わない新出社長が高校生活で唯一約束させたのが、ゴルフ部への入部だ。地元の高校に入学した美咲さんは、「社長はゴルフ好きが多い。一緒にラウンドしながら学ぶことがある」と語る父の思いを受け、全く経験のなかったゴルフ部に飛び込んだ。