世代間のギャップは、家業と事業のどちらを残すかという議論でも生まれました。

 04年以降、業績悪化に歯止めがかからない中、私は会社の売却も検討すべきと考えるようになりました。「ホテルチェーンなどの傘下に入り、自主再建を断念する選択肢がある」と2人に伝えたのです。

家業と事業の残し方

 老舗の看板は下げることになりますが、旅館としての事業は存続でき、交渉次第で従業員の雇用も守れると思いました。実際、地元にはチェーンの傘下に入って営業を続けている旅館があります。

 これに伯父と父は大反対。「ご先祖様に申し訳ない」と。溝が埋まらないまま経営を続けました。

白木屋グランドホテルがあった山口県長門市の湯本温泉街。音信川(おとずれがわ)沿いに旅館やホテルがある(写真/今村浩一)
白木屋グランドホテルがあった山口県長門市の湯本温泉街。音信川(おとずれがわ)沿いに旅館やホテルがある(写真/今村浩一)

 事態がいよいよ深刻になったのは、08年のリーマン・ショック以降です。売上高は10億円を割りました。資金繰りが苦しくなり、突発的な設備の補修費や従業員への給料、税金などの支払いが厳しくなり始めます。そこで手を染めてしまったのが私財の投入です。

 1000万円足りないなら、会長500万円、社長400万円、私100万円をそれぞれ出すことを家族会議で決める。最初は急場をしのぐだけのはずが、頻繁になる。法人と個人のカネの区別が付かない泥沼にはまっていきました。

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