旅行代理店に集客を任せていれば、団体客は続々と入ってくる。後は旅館で待ち受けていいサービスを提供すれば、お客様は自然とまた来てくれる。こんな時代を過ごしてきた2人は、個人客への対応の仕方が分かりませんでした。

 例えば、接客。今のお客様の中にはプライバシーを重視する人が多い。従来はお客様が到着したら、担当の仲居が部屋でお茶を入れ、浴衣を着てもらいながらサイズを確認する。食事の準備ができたら知らせに行くなど、何度も部屋を訪れるというスタイルでしたが、最近は、そうした接客を嫌う人が増えました。

 ならば、浴衣もチェックイン時にフロントで選んでもらうなど、なるべく仲居が部屋に入る回数を減らせば、お客様の満足度は高まる。しかも、仲居は浮いた時間でほかの業務ができる。それを提案すると「フルサービスが一流旅館の証し。二流に落ちるようなことをするな」と反対され、議論せざるを得なくなる。 

旅行代理店任せの営業から抜け出せず

 集客に関しても同じ。建物が築30年以上の古い旅館のため、大手旅行代理店から「客単価1万5000円以上で売る自信がない」と言われる現実がありました。

 そこで、客単価が低く、リピート需要などが見込める修学旅行やインバウンド(訪日外国人客)を受け入れようとすると「俺たちの時代は客単価が2万円を超えていた。修学旅行などのような客単価1万5000円以下のお客を受け入れるのは、B、Cランク以下の旅館」と真っ向から否定される。

 そうかといって「では客単価を上げるにはどうすればいいですか」と私が尋ねても、具体策はない。「営業が足りない」の一点張り。一事が万事、こんな調子です。

(後編に続く。この記事は「なぜ倒産 平成倒産史編」に掲載した内容を再編集したものです)

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「会社を潰した経営者の告白」5編のほか、社長の苦渋の証言を多数収録。
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【本書の構成】

  • ■ 第1章 倒産は「急成長の証し」でもあった
  • ■ 第2章 「想定外」に長引く不況、変化対応が問われる
  • ■ 第3章 経営者よ、「死に急ぐ」な!
  • ■ 第4章 じわり企業体力奪う「跡取り問題」
  • ■ 第5章 経営者の孤独に付け込む「悪魔のささやき」
  • ■ 第6章 優しい行政、続出する「2度破綻」
  • ■ 第7章 「老舗大倒産時代」の到来
  • ■ 第8章 「倒産というカード」の切り方

【COLUMN】倒産の定義と現況
【COLUMN】個人保証は外せる!

【MESSAGE】「会社を潰した経営者の告白」
「予期せぬ事態が5つも同時に起きるとは」/「傷が浅いうちに倒産を決断すべきだった」/「未曽有の環境変化にも抗う術があったか」/「先代たちが改革の抵抗勢力、身内に負けた」/……など5編

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